宮嶋結香 作品展
LOOK
2023.4.28[金]- 6.7[水]

【第17回】宮嶋結香
https://www.yuukamiyajima.com/
画家。福島県出身。
女子美術大学芸術学部美術学科卒業。
【主な受賞歴】
2018 利根山光人記念大賞展 準大賞
2016 HB Gallery F ile C ompetition vol. 27 永井裕明賞
2015 HB Gallery F ile C ompetition vol. 26 藤枝リュウジ特別賞

【近年の個展】
<2022年>
art Truth(横浜)
Galley×Cafe Jalona(東京)
諄子美術館(岩手)14’ 17′ 20’
JINEN GALLERY(東京)16’ 18 ‘19’
アートスペースエリコーナ(福島)12 ‘
SUTTENDO COFFEE(埼玉)
Bar 十月(新宿ゴールデン街)19 ‘20’ 21 ‘
<2021年>
ondo gallery(東京)20’
Galerie VIVANT(東京)19’ 20’
365 cafe Art Gallery(西武渋谷店)
ヒロ画廊 ( 和歌山)19’
<2020年>
いとなギャラリー(東京)
<2019年>
柳沢画廊(埼玉)10’ 12 ‘15’
【コレクション】
女子美術大学美術館
諄子美術館
鹿沼市立川上澄生美術館

【見どころ】
ほのぼのとした動物たちの絵柄で知られる宮嶋結香さん。365cafe art gallery の第1回目でご紹介しましたが、ぜひもう一度という声も多く、今回2度目の登場となりました。お米の袋にアクリル絵具やクレヨン、色鉛筆などで描いているのは変わらずですが、今回はモノタイプの版画作品も展示。版画といえばたくさん刷れるものですが、こちらの「モノ」は「単一」という意味の「mono」。つまり一点しかできない新しい版画作品なのです。これまでとはまた違う宮嶋ワールド。従来タイプの作品と併せてお愉しみください。

インタビュアー 株式会社サンポスト 前田 敏之)

■絵を飾ることを身近に感じてもらえたら……。

――365cafeの後も、今年中に六本木や清澄白河をはじめ、埼玉、神奈川、和歌山など6ヵ所での作品展が予定されていますね。今回の展示以前にも、名古屋や岩手でも作品展やワークショップを開催と、大活躍のご様子です。ここ365cafeもそうですが、いわゆる画廊ではない場所での展示も多いですね。
〈宮嶋〉はい、名古屋では家具屋さんが会場でした。
――具体的にはどのような感じだったのですか。
〈宮嶋〉名古屋でのアートイベントは現地のCONNECT(コネクト)という家具屋さんの試みで、間にギャラリーが入りアーティストと繋いで、家具屋さんを会場としてイベントを行うという感じでした。会場が家具屋さんというところがまず面白くて、自宅に絵を飾るということがより身近に感じてもらえたらいいなと思いました。
――確かに画廊や美術館での展示は、作品とダイレクトに向き合えるところはいいと思いますが、その一方で親しみやすさはないですからね。アートと日常が分離していて、非日常の空間になっている。その点、家具屋さんだと部屋に作品を飾ったときの様子がすっと想像できそうです。
〈宮嶋〉パーテーションを立ててたくさんの作家さんの作品が展示され、似顔絵イベントをしたりワークショプをしたり、公開制作があったり、CONNECTさんと地域の方との関わりが深いこともあって、お客さんもたくさんいらしてくれて、その土地や場所の雰囲気が見られました。それがいろいろな場所で展示をすることの面白いところです。私はワークショップも開催させてもらって、子どもたちや、現地の方と触れ合えて楽しかったです。
――ワークショップではどんなことをされたのですか。
〈宮嶋〉CONNECTさんのワークショップでは、機会があれば定期的に開催しているリトルモンスターというオリジナルの人形を作ってもらうワークショプをしました。リトルモンスターはもともと自分の作品として制作していましたが、いまは誰かに作ってもらうことが楽しくて、ワークショップで増殖してもらっています。
――増殖っていうのがいいですね(笑)。
〈宮嶋〉はい(笑)。もともとの自分での制作も増殖させようと思って作っていました。作り方はペットボトル飲料などにおまけで付いていたボトルキャップフィギュアをベースに、そこにコルク粘土で肉付けしてもらい、木の枝や木の実、ビーズや貝殻などいろいろなもの装飾に使ってもらってオリジナルの人形を作ってもらうという感じです。
――可愛らしい作品がたくさん出来上がりそうですね。宮嶋さんの作品を拝見していると、アートが日常に密着している感じがします。「どうだ、アート作品だ」というのではなく、宮嶋さんの作品と一緒にいることで、より一層、暮らしが楽しくなるような、そんな気がします。
〈宮嶋〉ありがとうございます。絵もそんな風に誰かの日常に入って、生活の中に、ちょっとした楽しみというか、飾ったり、眺めたりすることで心のゆとりみたいなものが出来たらいいなと思います。ワークショップ作品のリトルモンスターもすぐに飾れるような作品が出来るので、持ち帰って飾って楽しんで欲しいです。でも、何より出来上がった作品を見る自分が一番楽しませてもらっています。

■アウトサイダーな作家に惹かれる。

――岩手の方はいかがでしたか?
〈宮嶋〉岩手県は北上市にある諄子美術館で大体2年ごとぐらいに展覧会をさせていただいています。昨年も展示させていただいて、私も東北出身だからか、とても落ち着く場所です。
――ご出身は福島県のいわき市でしたね。
〈宮嶋〉ただ地元とは違い、北上市は、冬は雪がすごいですね。北上川が近いので、会場に行く時は時間を見つけて散歩したりしています。
――こちらは及川諄子さんが集めた作品を展示しているいわば個人美術館ですね。静かな空間でじっくりと鑑賞できそうです。都心で行われる展覧会は、特に混雑していて、周りが気になってゆっくりできません。先日、東京都美術館で開催されたエゴン・シーレ展に行ったのですが、すごい人でした。
〈宮嶋〉エゴン・シーレ展は私も観ました。シーレの原画を観たことがなかったので、観られてよかったです。やっぱり線がとても魅力的で、印象より丁寧に描かれている感じがしました。
――美術館へはひとりで行かれるのですか。
〈宮嶋〉ひとりで行くことも多いですが、今回は母と観に行きました。母もシーレの作品に魅せられて、Tシャツを買っていました(笑)。個人的には会場に展示されていたリヒャルト・ゲルストルという作家の作品も気になりました。
――やっぱり原画をよく見ると、線や絵具のタッチがよくわかって、また違った味わいですね。リヒャルト・ゲルストルの作品が気になるというの、なんとなくわかります。「自画像」(レオポルト美術館蔵)など、宮嶋さん好みの色合いなのかなという気がしますが、具体的にはどんなところに惹かれましたか。
〈宮嶋〉そうですね、美術館のゲストルスが飾ってあった部屋に入ったとき、あの大きい自画像がまずパッと目に入ってきて、何か心がざわつく感じがありました。あとで調べたら結構波乱な人生で、若くして自ら命を絶ってしまっているんですね。タッチや色使いもそうですが、観てると何かソワソワしてくる感じがします。
――第一回目のインタビューのときに、ロベール・クートラスやダニエル・ジョンストンがお好き(彼らに純粋さゆえの狂気を感じるところ)とのことでしたが、こちらについても、もう少し具体的に説明してください。
〈宮嶋〉ロベール・クートラスは大事な宝物を探すように作品を生み出しているイメージです。「僕の夜」という小さなカルトシリーズもクートラスの魂がこもっている感じがします。「僕のご先祖様」というタイトルの作品シリーズもあって、何か時間を超越しているような印象もあります。少年期には両親にアーティストになることを否定されて、生きる希望を失って何も食べずベッドに寝たきりになり、栄養失調で病院に運ばれたりしていて、生きることそのものが彼にとっては芸術に直結しています。絶対真似はできませんが、そういうところもすごいと思います。画廊から売れる絵を描くことを強要されたときも拒否して、貧乏な厳しい生活の中でも彼の愛するものに囲まれて、たくさんの素晴らしい作品を生み出しています。
――ダニエル・ジョンストンはいかがですか。
〈宮嶋〉絵も好きですが、彼の音楽も好きです。映画を観ましたが、うろ覚えですがご本人はなかなかハードな人でした。統合失調症などもあったようで、実家にずっと両親と住みながら、音楽を作って絵を描いて、その作品がすごくいいですね。絵は怖さとキュートな感じが融合していて、ポップなんですが彼の内面がとても反映されている感じがします。共通していうなら、アウトサイダーな方が好きなのかもしれません。
――アウトサイダーって言っていいのかわかりませんけれど、たとえば私はフランシス・ベーコンに惹かれますが、もしお金があっても家に飾りたくはないです。悪夢にうなされそうです(笑)。宮嶋さんは、自分をごまかすことなく、真摯に向き合っている作家がお好きなのではないでしょうか。
〈宮嶋〉ベーコンは確かに、ダークファンタジーな夢を見そうですね(笑)。そうですね、そうなのかもしれません。
――他に注目されている作家はいらっしゃいますか。
〈宮嶋〉一昨年くらいからモノタイプを始めたので、最近展覧会も多く開催されている染色工芸家の柚木沙弥郎さんの作品などを観入ってしまいます。モノタイプはデザイン構成みたいな要素もあるので、私にはまったくないセンスを柚木さんの作品を眺めて楽しみます。
――いやいや、宮嶋さんの構成力はすごいと思いますけれど……。

■モノタイプ版画のプレス感が好き。

――今回はモノタイプ版画の作品も展示していますが、モノタイプ版画をやろうと思ったきっかけは何かあったのでしょうか。
〈宮嶋〉版画だけの展覧会をやってみようとギャラリーの方にご提案いただいたことがあって、もともと版画はやっていたので、面白そうだと思い、それに向けて作品を制作する上でモノタイプを思いつきました。
――どういった版画なのでしょうか。
〈宮嶋〉モノタイプの「モノ」は一つの、という意味で複製は作れない版画になります。複製が出来ることが版画の大きな魅力でもありますが、モノタイプは1点ものの魅力と、プレスをするという版画の魅力を組み合わせたような表現ができるので、版画のプレス感が好きで、たくさんいろいろな作品を作りたい自分にはとても合っていたと思います。
――具体的にはどのように作るのでしょうか。
〈宮嶋〉私はモノタイプを作る時には工房に行って、刷り師さんと一緒に作業をします。私は絵を描いて、インクの調合や刷りは刷り師さんにお願いして、共同作業のように作っています。作り方としては、透明フィルムの上にまず絵を描いて、それを刷り、刷り終わったらフィルムの上のインクを拭き取り、別のインクでまた絵を描いて色を重ねていきます。紙版画を使うことも多いので、ペンのように線が細く出ている作品は紙版画との併用になっています。多分モノタイプ自体はひとりで作業は出来ますが、私は描く時に版画のリトグラフのインクを使っているので、重ねた時の色合いがとても大事になり、刷り師さんと相談しながら作ることで、自分では思いつかない色のバリエーションを楽しめています。
――モノタイプの作品は、版画だからなのか、いつもの作品とはまた違い、迫力がありますね。最初に拝見したとき、アンディ・ウォーホルの作品を思い出しました。
〈宮嶋〉多分リトグラフのインクを使ってシンプルに色を重ねていく感じが、ウォーホルのシルクスクリーン作品と通じているのかもしれませんね。
――そういえば、これも前のインタビューの際に伺ったことですが、「いまは同じ世界に存在している動物や風景を描くことで『世界に含まれる自分』と『記憶』のようなものを表現したい」とのことでしたが、どのくらい達成していると思いますか?
〈宮嶋〉これは難しいですね……永遠のテーマのようなものなので。でも、完成した作品は現段階での自分では、ある程度は満足できていると思います。そうでないと完成できないので…。
――それはそうですよね(笑)。

■本や映画を何度も読んだり観たりして深彫り。

――作品をつくるとき、宮嶋さんはいつもどのようにして発想されているのでしょうか。映画や本などからインスピレーションを受けることはありますか?
〈宮嶋〉はい、でも映画の方がインスピレーションを受けることは多いかもしれません。映像が自分の絵にどこか似ていたり、この場面いいなと思うと、写真に撮っておきます。もちろん映画館で観ているときに写真は撮りませんが(笑)。映画も本も気に入ると大体何回も観たり、読んだりします。本は特に内容を全部は覚えていられないので、面白い本は繰り返し読みます。直近ではカーレド・ホッセイニの『君のためなら千回でも』と、トム・ロブ・スミスの『チャイルド44』を読み返しました。
――『チャイルド44』は猟奇殺人を元にしたミステリーでしたっけ?
〈宮嶋〉はい、でもスターリン体制からのソ連が舞台で、猟奇殺人の中に社会のあり方の問題や、抱える闇のようなものが浮き彫りになってきて、その中での人々の葛藤みたいなものも表現されていて読んでいて苦しい感じもありましたが、面白かったです。『チャイルド44』も『君のためなら千回でも』も、どっちも映画化もされていて、映画の方も面白かったです。映画といえば、去年観た村上春樹原作の『ドライブ・マイ・カー』は観るたびにいろいろな感じ方が出来て面白く、何回も観ました。
――映画だとまだ覚えていられますが、本は読んでも忘れちゃいますね。『ドライブ・マイ・カー』も実は4回くらい読んでいて、読んだすぐ後は、ああこういう話だった、となるんですけれど、すぐに忘れてしまい、あれ、なんだったのかなと。いまはもうまったく思い出せません(苦笑)。記憶力が欠如しているせいかもしれませんけれど。その点、絵画作品などは、一度見たら忘れないです。一枚にいろいろなことが凝縮されているからじゃないかと思います。
〈宮嶋〉確かに、絵画作品はその中にすべての意味が込められていて、それを言葉にすることなく感じとれるというのはすごいことかもしれませんね。
――最近、身の回りで大きな変化はありましたか?
〈宮嶋〉4月末に引っ越しをするので、それが一番大きい変化になりそうです。
――環境が変わるとまた新たな制作意欲が湧いてきそうです。将来こんなことをしてみたい、といったようなことはありますか? コロナでの規制が緩和されていますが、たとえば世界旅行に旅立ちたい……とか。
〈宮嶋〉将来……そうですね、旅行は行きたいです。将来というと遠い感じがしますが、沖縄に一度も行ったことがないので、沖縄はタイミングをみて近い将来に行きたいです。
――今回、展示をご覧になられた方に、メッセージをお願いします。
〈宮嶋〉この度は365cafeで作品を観ていただき、ありがとうございます。今回で365cafeでは2回目の個展をさせていただきます。1回目に展示したときは、ありがたいことにこけら落とし展をさせていただいたので手探りな感じもありましたが、今回はこの素敵なカフェの空間に自分の作品がどう馴染むか、あらためて楽しみです。お茶や軽食を楽しみながら、ゆっくり作品をご覧いただけましたら嬉しいです。

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企画:編集プロダクション 株式会社サンポスト