第44回 365cafe 作品展
Urban Zoo|街の動物園
中條亜耶作品展
開催日:2026.6.3~7.13
日本画家。神奈川県横浜市生まれ。東京藝術大学美術学部絵画科日本画専攻卒業。
多種多様な動物の姿かたちをシンプルな図像に置き換え、動きのユニークさや色の鮮やかさを引き出すような日本画を制作している。
【主な作品展】
2025年 Little songs(Sakuma art gallery/東京)
2024年 Herbivore(B-gallery/東京)
Carnivore(創英ギャラリー/東京)
2023年 GIFT(銀座ひとつぼギャラリー/東京)
2022年 Paradis(創英ギャラリー/東京)
AWAKEN(エンブレムフロー箱根/神奈川)
浅瀬のおともだち展(東急プラザ渋谷111/東京)
2021年 中條亜耶 日本画展(福岡三越/福岡)
Wormhole(創英ギャラリー/東京)
2020年 366DAYS(アートコンプレックス・センター/東京)
【主な受賞歴】
2023年『IAG AWARDS 2023』B-Gallery賞
2020年『第46回三菱商事アートゲートプログラム』入選
2019年『かわうそ新人賞 』月刊美術賞
2018年『公募日本の絵画』入選
2017年『A-TOM ART AWARD』受賞
Agreement
Battle with time
Relax
【見どころ】
さまざまな動物たちを切り絵のような大胆な色面と抽象化された形で表現している中條亜耶さん。興味深いのは、「題材としている脊椎動物は、背骨という芯の構造を人間と共有しながらもその姿かたちは驚くほど多様で自由です。そうした自由な形態を抽象化してゆく中で、動物ごとに異なる『リズム』が見つかると、それが自分の絵になってゆくように感じます」(月刊美術+のインタビュー、2025年12月)と語っていること。ふつうは動物の表面的な仕草や形を見てしまうと思うのですが、中條さんはまず、背骨(骨格)を意識しているようです。だからこそ、単なるイメージではなく、動物の特徴を見事に捉えた作品に仕上がっているのです。岩絵具という日本画の素材を駆使して出来上がる動物たち。中には非常に珍しい動物も。見るほどに楽しくなってくる「Urban Zoo|街の動物園」。作品制作の裏側を覗いてみたいと思います。
(インタビュアー 株式会社サンポスト 前田 敏之)
■東山魁夷の「緑響く」に感銘を受けて。
――おそらくWeb上で中條さんの作品をご覧になっている方は、ディテールがわからなくて、カラフルな色彩と動物の仕草にまず目がゆくと思うのですが、実際の作品を拝見して思ったのは、白熊なら白熊の白の美しさ。キラキラしていて物質としての存在感にも魅了されました。これは油絵などとは違う、日本画ならではの繊細な美しさだと思います。中條さんにとって日本画とはなんでしょう。
〈中條〉日本画は、最初は記憶の中にある憧れの存在でした。でも実際に触れてみると面倒くさくて、やたら手間のかかるやつという印象です。けれどその面倒くささが面白くてむしろ価値のあるものだと感じています。実は、小学4年の頃に横浜美術館で東山魁夷の作品「緑響く」(だったかと思います)を近くで見て、岩絵具の素材感に惹かれました。当時は水彩絵具、色鉛筆、クレヨン、あとは砂絵や粘土のような小学生らしい画材しか知らなかったので、日本画の絵具の輝きがとても不思議に感じられました。
――「緑響く」は白い馬と森と湖がとても印象的な作品ですね。個人的なことで恐縮ですが、私の父が、東山魁夷が大好きで、家に画集がたくさんあり、この絵も、折に触れてよく見ていました。中條さんは、どんな子ども時代を過ごされていましたか? 動物園などにもよく行かれたのでしょうか。
〈中條〉幼少期は野毛山動物園やズーラシアに連れていってもらった記憶があります。国内外の旅行にも連れて行ってもらいました。小笠原諸島で遊んでいたら断崖絶壁から落ちそうになって間一髪で父が助けてくれたのをよく覚えています。生きててよかった!
――崖から落ちそうになったって……ワンパクだったんですか(笑)?
〈中條〉多分あまり危機感がない子どもだったんだと思います。崖から落ちても大丈夫と思っていたんでしょうね。あと、友人たちとは家でも外でもよく遊んでいたと思います。自転車で行けるところまで行こう! と適当に走ったり、鶴見川の藪の中で秘密基地らしきものを作ったり、子どもらしく遊んでいました。
――好きだった学科、嫌いだった学科はなんでしょう?
〈中條〉図工と社会が好きでした。小1の時に油粘土で作ったクマがクラス投票(?)で一番人気だったので、自分は図工が得意なのかと自覚し、ものを作ることを頑張ってみよう!と思えました。社会は母方の祖母が第二次世界大戦時、長崎に看護師として派遣された話を聞いて、小学校の高学年頃から歴史について敬意を持つようになりました。あとは映画「二百三高地」を見ている時に母が解説してくれたんですが、それを聞くとさらに深みが増し、歴史や地理、政治を知っていた方が人生豊かじゃないか? とも思いました。
――お祖母様は相当苛酷な体験をされたと思います。身近な人から歴史を聞かせてもらうと、遠い過去だと思っていたものが、日常に続いているのがわかります。そういった意味でも戦争体験などを語り継ぐことは、記録をリアルなものにするために大切なことですね。それでは嫌いな学科はいかがですか。
〈中條〉嫌い(な学科)というわけではないですが、中学生のころ理科の授業でブタの目玉を解剖したときは衝撃的で面食らってしまったのですが、生き物と向き合う経験としてもう少し落ち着いて受け止められたらよかったなと思っています。
――これもかなり激しい体験ですね。理科の実験で、ふつう魚の解剖くらいはしますけれど。ところで高校はデザイン系とのことですが、ちなみにどちらでしょうか。
〈中條〉神奈川工業高校です。友人が行くと言っていたのと、家から歩いて通える学校がよかったのであまり深く考えず決めました。製図の授業が好きでした。担任の先生には「この学校じゃなかったら中條さんは授業をサボっていたよ」と言われたのですが、そう思います。
――楽しかったんですね! Webで拝見した高3のときの年賀状、ウサギの絵柄は海外の作品のような洒落た雰囲気があります。グラフィックデザイナーになるつもりはなかったのでしょうか。
〈中條〉デザイン科ということでそういう仕事に就こうと考えていた時期もありました。学校の授業も楽しかったですし。ただ3年間学ぶと、デザインとアートの違いがだんだん理解できて、自分の根幹はアートであってデザインの素質はやや弱いなと思いはじめました。とはいえデザインもアートもどちらも好きな分野なので、現在も両方に関わりながら制作できていることをありがたく感じています。
――確かに、中條さんの作品は平面作品から着物の帯の絵柄としても採用されていますね。帯の絵柄に使われると、また違った味わいがあります。あれはどういう経緯で帯の絵柄になったのでしょう。
〈中條〉自分のホームページに直接、きものやまとさんからご連絡をいただいたのがきっかけです。SNSで作品を見つけてくださったそうで、帯のデザインに使っていただく流れになりました。自分の絵をデザイナーの方が再構築してくださるのも、興味深かったです。作品を尊重してくださりながらも帯として成立させるための設計や着物との組み合わせを前提にした視点があり、なるほど! と、とても勉強になりました。アオアシカツオドリやビントロングといった少し珍しい動物も選んでいただいたのも、とても嬉しかったですね。結果的に5種類の帯を作っていただくことになり、思っていた以上に広がっていって感謝しております。
https://www.kimono-yamato.co.jp/sale/syokanooshitakufair2026/
■動物の形態を観察しながら抽象化。
――東京藝術大学に進学されたのはなぜでしょう。
〈中條〉高校に教育実習生で東京藝術大学の方が来てくれて、初めてその大学を認識しました。進学については何も考えていなかったので、こんな先生が来たよ~と家族に話したらデッサン見てもらいなよ、と言われて教えていただきました。それからほどなくしていつの間にか予備校に体験入学が決まっていて、なんとなく何かを頑張ってみたいという気持ちと合致して藝大を目指すことにしました。大学入学後に知ったのですが父方の祖母も昔、日本画を描いていたそうなので縁があったんだなと思います。
――大学生活はいかがでしたか?
〈中條〉とにかく友人たちと遊んだのが楽しかったです。夜通し借りてきた映画を見たり、不忍池で朝までしゃべり倒したり、友人宅に窓からお邪魔して夕飯をいただいたり、いま思うと不真面目な生活だったので、もう少しちゃんとすればよかったかもしれません。
――友人宅に窓からお邪魔って、やっぱりワンパクなんですね(笑)。ところで動物をモチーフに作品化するようになったのはいつでしょうか。何かきっかけはありましたか。
〈中條〉大学の授業で一通りモチーフを描いてみると、明らかに楽しさが異なりました。動物のスケッチなら何時間でもできたので、作家としてやるなら長く続けられるものを対象にしないと苦しいだろうと考えていました。あとは在学中に初めて購入していただいた作品も動物の絵だったので、卒業後に作家として踏み出すなら動物でいこうと思っていました。
――初めて売れた作品は、どんな動物の絵だったのでしょう。
〈中條〉100号のヒョウの絵でした。いまよりももっとリアルに描写していた作品です。考え事が多く、大学での制作がパッとしなかった時期に、自宅で一人でコソコソ描いていたものでした。それを気に入っていただけたのは、かなり救われた記憶があります。タイトルは「Lurk」で、私もヒョウのように隠れ潜んでいる状態でした。
――新人の、しかも100号という大作が売れたのは、大きな励みになりましたね。ちなみに動物は何か飼われていますか?
〈中條〉飼っていないです。動物と身近な家族として暮らすことにも魅力を感じますが、いまは完全には理解できない存在として少し距離を保ったまま向き合っていたいという思いがあります。
――作品にはいろんな種類の動物が描かれていますが、一番お好きな動物は?
〈中條〉幼い頃からクマが好きです。日本の陸上動物で一番大きいので、存在自体が圧倒される畏怖の念と可愛らしさとが混在している面白い動物だと思っています。ただ最近は事故が多いので共存の難しさを考えさせられますね。
あとは、ここ数年はビントロングというジャコウネコの仲間にもハマっています。別名クマネコともいわれるのでなんだかクマっぽさもあり、ユニークなのでよく絵にしています。
――お話を伺っていて初めてビントロングを知りました。なかなかレアな動物だと思うんですが、中條さんはどのようにしてこの動物を知ったのでしょうか。
〈中條〉ニュースで見たのが最初です。どこの動物園の特集かは忘れてしまったのですが、こんなに可愛くて、いろんな動物に似ているのにそのどれでもない生き物がいるのか! と衝撃を受けました。ポップコーンの匂いがするというのも気になってすぐに那須どうぶつ王国に実際に見に行きました。
――月刊美術のインタビューで、動物の自由な形態を抽象化してゆく中で、動物ごとに異なるリズムが見つかると自分の絵になってゆく、と答えられていますが、まず最初は、動物の骨格の面白さ(形態の面白さ)に惹かれるのでしょうか。
〈中條〉はい。特に脊椎動物は人間と共通するパーツで構成されているのにも関わらず、バリエーションが豊かでそこが面白いと思っています。他にも面白い形の生物は地球上に溢れていますが、似た構造なのにこんなにも多様というのが惹かれている部分です。それを観察しながら抽象化する過程が楽しいです。
――動物のわからなさを、点のような目で表現しているとのこと。リアルさを追求しないことで、見る人に考える自由度を与えているのですか。
〈中條〉そうですね、私自身、動物を見て「その目で訴えている本当のことは分からないや」と思って描いています。その「分からなさ」を自覚することが出発点で、そのうえで観察や想像を重ねながら描いていくのですが、最終的に画面に現れるのは私の解釈を通った姿になります。そして作品を見た方もそれぞれの経験や感覚を通して受け取ることになる。なのでやっぱり目は点がいいなと。そんな感じで描いております。
■仕上げに向かう意気込みが大事。
――作品の制作手順を教えてください。アイデアスケッチなどは、相当量されるますか。
〈中條〉アイデアスケッチは幾何学模様みたいな感じで気軽にたくさん描いています。気に入ったものを元に下図と呼ばれるエスキースをこねくり回して動物の形を作っていき、それからデジタル上で配色を考えた後に実際に使う絵具の色と照らし合わせていきます。色決めはいつも本当に悩んで時間がかかるのですが、岩絵具はいろんな色があるのでなるべくたくさんの種類を使いたいなと思っています。色が決まったら下図のコピーをなぞって本紙に筆圧で跡をつけ、色をのせていきます。彩色に入る時点で完成のイメージが分かる状態にしていますね。
――どんな道具を使っていますか。たとえばスケッチブックは〇〇で、鉛筆は〇〇がお気に入り、とか。筆や絵具はこれがないと困る、といったようなことはありますか。
〈中條〉いままで使っていた吉祥麻紙が廃番になってしまったのですが、越前麻紙が求めている物に近かったので現在はそれを使っています。麻紙がないことには描けないので、岩絵具や筆も含めて画材を生産してくださる業界が長く続くことを祈っています。やはりいろんな色の絵具を使い続けようと、改めて思いました!
――ひとつの作品を制作する場合、どういうところから始めるのでしょうか(たとえば写真を見て、まずイメージを膨らませるとか、言葉から連想してコンセプトを固めるとか……)。
〈中條〉とにかくいろいろと種をばらまいておきます。スケッチや写真などの図のストックとコンセプトやタイトルなどの文字情報のストックを貯めておいて、それを収穫する感じで決めたりします。最終的には、決めるぞ! という意気込みが一番大事です。
■旅先の料理に舌鼓を打ち、文化・芸術に触れる。
――話は変わりますが、尊敬する作家の方はいらっしゃいますか?
〈中條〉昔からロートレックが好きです。単に作品自体が好きだったのですが、映画「赤い風車」を見て、ムーラン・ルージュも訪れたことで、よりロートレック自身に興味と尊敬を抱くようになりました。身体的なコンプレックスや複雑な背景を抱えて制作していたけども作品には重苦しさよりも軽やかさやユーモアが感じられて、そこに自己欺瞞を感じさせないところや、何より対象に愛があるなあと思っていて、そんな点を尊敬しています。
――ムーラン・ルージュ! 実際に行かれてどうでしたか?
〈中條〉赤かったです。ドレスコードがあったので少し緊張して行きましたが、思っていたより親しみやすい雰囲気で終始とても華やかで面白いショーを見ることができました。結構近くで見られ、特に水槽の中に女性が入ってパフォーマンスしていたのはインパクトがありました。会場全体が撮影禁止だったので「全部目に焼き付けよう!」と凝視した記憶があります。ロートレックのポスターもたくさん飾られていて、ここにいたんだなあと感慨深かったです。
――本や映画など、他の芸術分野でお好きな作家はいらっしゃいますか。
〈中條〉エミール・クストリッツァという映画監督の作品が好きです。とにかくたくさん動物が出てくるのと、戦争や歴史など重い題材でもユーモラスで祭のような熱量と賑やかさで描かれているのが魅力的です。世界は美しいだけでも悲しいだけでもなく、混沌としていて穏やかで騒がしく、それでも楽しいものだ! と思わせてくれるところが好きです。
――「黒猫・白猫」の監督ですね。ずっと昔に観た記憶があります。ユーモアのセンスが格別ですね! 絵を描く以外で、お好きなこと(趣味)はなんでしょうか。
〈中條〉ゲームが好きで、最近は「シヴィライゼーション」というものにハマっています。人類文明を発展させるゲームでいろんな歴史上の指導者が出てきたり、有名な絵画や世界遺産が出てきて楽しいです。あとは旅行も好きで、4月に伊勢志摩に行ってきました。伊勢志摩で牡蠣を食べてきたのですがあまりにも美味しかったので、旬の海産物巡り旅でもしたいなと思っています。
――海鮮料理がお好きなんですか。
〈中條〉はい。特に旅先で食べる海鮮は思い出抜きにしても最高で、高知のもち鰹やら、金沢で食べた蟹やら、佐賀の呼子のイカやら、北海道の毛ガニやら、旬の新鮮な海鮮は本当に美味しいです。
――どのくらいの頻度で旅行に行かれているのでしょう。インスタに海外の風景をアップされていたように思いますが……。
〈中條〉年に国内旅行2~3回、海外は1回ほどです。今年の3月にはトルコを訪れました。イラン情勢が不安定になり始めた時期で少し気を揉みましたが、現地の方の考えを聞くいい機会にもなりました。現政権への考え方やイスラム文化への解釈、世界遺産の姿が変わっていく現実的な面を実感することができましたし、街中にケマル・アタテュルクの顔がドーンとあるのですが、自国に対して強い誇りを持っているんだなあ!とも感じました。もともと世界遺産を多く持つイランにいつか行きたいと思っていたのですがなかなか叶わず、治安の安定したウズベキスタンやトルコを訪れる形になりました。歴史や文化がこれ以上失われることなく残ってほしいですね。
――歴史や文化のある街がお好きなのですね。
〈中條〉好きです!歴史を知ることで、その場所がより面白く感じられます。仕事で美術史やデザイン史に関わることもあり、そうした視点が以前よりも身についた気がします。最近は文化遺産を巡ることが多かったので、今後は自然にも触れたいです。いつかガラパゴス諸島とマダガスカルに滞在してじっくりスケッチをしたり、現地で出会った人たちとお絵描き大会のようなこともしてみたいですね。短期間で詰め込む旅も好きですが、余白のある旅もしてみたいと思っています。
――旅をすることでまた刺激を受けて、中條さんの新しい作品世界が広がってゆくように思います。今回、作品をご覧になった方へ、メッセージをお願いします。
〈中條〉作品を見ていただきありがとうございます。都会に現れた動物園のような感覚で楽しんでいただけたら嬉しいです。地球には多様な生き物がいて、作品を通してその面白さや愛おしさを少しでも共有できたら幸いです。
作品および作品画像の著作権は全て作者に帰属します。当社および著作権者からの許可無く、掲載内容の一部およびすべてを複製、転載または配布、印刷など、第三者の利用に供することを禁止します。
