第42回 365cafe 作品展
「魂のスケッチ」
はらぐろぴかそ×西片信也 作品展
2026年4月1日(水)-2026年4月30日(木)
はらぐろぴかそ 芸術家
1991年生まれ。東京家政大学造形表現学科卒。
わたしの描く生き物は暮らしの中に潜む精霊のような存在です。日々を生きる中で心が踊るタネを拾い集め、自分の中で反芻していくうちに形成されてゆくイメージをありのまま作品にしています。これまで個展・グループ展の開催、ライブペイントや壁画制作、映画作品等へのアートワークなど好奇心赴くまま幅広く活動中。
【主な個展】
2016年 「ハラカソグロピ」(GRASS ROOTS / 神奈川)
2016年 「革命児爆誕」(CAFE ZENON / 東京)
2022年 「愛の種」(SAVE AREA / 埼玉)
【イベント/アートワーク】
2012年 「Red bull Curates Canvas Cooler」(レッドブル・渋谷オフィス / 東京)
2013年 「DESIGN FESTA vol.38」巨大ライブペイント(東京ビッグサイト / 東京)
2013年 「お好み焼きさくら亭」内装壁画制作(東京)
2014年/2015年/2016年「JAPAN HOMECENTER SHOW」和信ペイントブースライブペイント(幕張メッセ / 千葉)
2014年/2015年/2017年 「秘境祭」ライブペイント(玉川キャンプ村 / 山梨)
2018年 映画「来る」(監督:中島哲也)にて美術制作
2019年 映画「ブラック校則」(監督:菅原伸太郎)にてキービジュアル美術制作
2019年 「アップアップガールズ(仮)」音楽ライブでのライブペイント(HEAVEN’S ROCK / 埼玉)
2016年-2025年 「中野南口わいわいまつり」ライブペイント(中野南口商店街 / 東京)他
西片信也 画家
1989年生まれ。長岡造形大学デザイン学科卒。
日常の中から生まれる感情、沸き起こる激情、社会風刺などを作品内に叩き込む。アクリルガッシュとペンを炸裂させ、カラフルでインパクトのある作品は平面にとどまらず、キャンバスをはみ出て立体作品にも及ぶ。2012年から展示・ライブペイントなどをしながら活動中。
【主な個展】
2014年 「原色無法地帯」(下北沢ギャラリーHIBOU HIBOU / 東京)
2015年 「極彩総進撃」(デザインフェスタギャラリー / 東京)
2016年 「極彩の雄叫び」(デザインフェスタギャラリー / 東京)
2024年「喰らえ生きろ」(デザインフェスタギャラリー / 東京)
【イベント/アートワーク】
2015年-2018年 「デザインフェスタ」ライブペイント(東京ビッグサイト / 東京)
2015年 「真夜中アトリエ」ライブペイント
2016年 「SONICART」SUMMER SONIC
2016年-2025年 「中野南口わいわい祭り」ライブペイント
2017年、2019年、2022年 原宿さくら亭入口前壁画制作
2019年 「Co:Labs」BRUTUS、switch掲載
2019年 「MONSTER Exhibition 2019」(渋谷ヒカリエ8 / 東京)入選
2020年 サクラホテル神保町壁画制作
2025年 「デザインフェスタ」巨大ライブペイント(東京ビッグサイト / 東京)他
はらぐろぴかそ
「僕らのハネムーン」
はらぐろぴかそ
「だるまの遠足」
西片信也
「超花金ナイトフィーバー」
西片信也
「ライブイベント『燃えよ焼鳥剣』」
【見どころ】
見るほどに楽しげな、色鮮やかな作品が魅力のはらぐろぴかそさん。絵画や立体作品のみならず、東京ビッグサイトでのライブペイントや映画のセットでの作品を手がけるなど幅広く活躍中。一方、西片信也さんもライブペイントをはじめ、画面からほとばしるほどのエネルギッシュな熱情溢れる作風が、何かと停滞しがちないまの時代に活を入れてくれるように思います。お互いカラフルな作品で、自由奔放に見えますが、はらぐろぴかそさんが「静」なら西片信也さんは「動」。今回はお二人の対比とともに、改めて「芸術は自由だ」という、心躍る芸術の原点をご堪能いただけるのではないでしょうか。これまでに至るお二人の経歴とともに、作品にかける想いを伺いたいと思います。
(インタビュアー 株式会社サンポスト 前田 敏之)
■篠原有司男とピカソが創作活動の始まり。
――お二人ともそれぞれ別々に活動をされながらご夫婦で絵描きをされていますが、お二人同時の作品展「焼き鳥とグミ」を拝見したのが、2025年11月の新宿眼科画廊においてでした。ことに西片さんの作品を見た瞬間、前衛芸術家・篠原有司男さんを思い出しました。篠原さんは芸大を退学させられたとき、当時、芸大の教授だった林武氏から「君の絵に嘘はない。でも学校は辞めなさい」と言われたとか。西片さんやはらぐろぴかそさんの絵を見て思ったのが、「嘘がない」でした。実は弊社(サンポスト)で著名人にインタビューした本を制作したことがありまして、その中に篠原有司男さんの本「げんこつで世界を変えろ!」もあります。社員をニューヨークに派遣しての取材でした。
〈西片〉この本、買って持っています。
――ありがとうございます! 林武氏が言った「嘘がない」というのは、大衆に媚びていない、ということなのではないかと思うのです。芸術って本来は自由であるべきなのに、いろんな規制がかかったり、受けを狙ったりしているとだんだん貧相になってしまう。これじゃいけないわけで、いまこそ正直であるべきなのではないかと思います。政治の世界は駆け引きだらけですが、芸術だけは駆け引きなどせずに、思うまま制作してほしいと思います。前置きが長くなってしまいましたが、西片さんは篠原有司男のどのあたりに惹かれたのでしょう。
〈西片〉大学時代、絵のタッチに悩んでいるとき、大学の先生から面白い人いるよ、と教えてもらって興味を持ち、展示に行ったり、ボクシングペインティングも見て、こんなにも強烈な人がいるのかと驚きました。細胞がうおぉぉって高まる感じで色彩も勢いも凄まじくて、また立体作品まで作られていて、ここまでやっていいんだと、勝手にですが、背中を押された気がしました。
――はらぐろぴかそさんはいかがですか。お名前は、「腹黒のピカソ」って意味でしょうか。
〈はらぐろぴかそ:以下はらぐろ〉うーん、一言では言い表せないので長くなりますが、わたしのピカソとの出会いは、はじめ中学校の美術の授業でピカソのDVDを見たのがきっかけです。ピカソの人生をまとめた内容の映像でしたが、自分が周りに合わせて生きるのでなく、ピカソの生きる道に芸術の世界がついていくような生き様に、芸術の世界でなら人は自由に生きていいのだと救われる経験をしました。そこから夢中になって本や画集でピカソについて調べたり、ピカソ展にも行きました。とは言え、ピカソや美術好きということを当時女子高生だった自分は学校や友達には受け入れてもらえないんだろうなと隠していて。でも思い切って高校のスピーチの授業で、ピカソが好きだとスピーチしてみたら、私に対して「腹黒くてピカソ好きだから、腹黒ピカソだね」と冗談混じりで返答されて。自分が腹黒いと思われていたことにも驚いたけれど、ピカソが好きな自分のことを友人にすんなり受け入れてもらったことが、自分にとってありのままの自分でいることを全肯定してもらえたような特別な経験だったんです。
――「はらぐろ」ってかなりのインパクトですね。
〈はらぐろ〉はい。だから、はらぐろぴかそを名乗っているけど、”腹黒”という言葉についてのわたしのイメージは、黒というのは、全部の色を混ぜると黒になるように、どんな経験も自分の中に取り込んで、混ぜて自分のおなかの中の宇宙に吸収してしまう。そんな目には見えない”自分の中に宇宙を飼っている”という感覚が、自分にとっての腹黒のニュアンスとしてしっくりきています。はらぐろぴかそって言葉にはわたしの人生のいろいろが詰まっていて、名前でありながら、答えのない問いとしてはらぐろぴかそってなんだろうと、考え続けながら名乗っていこうと思っています。
■愉快な精霊みたいなものがそこらじゅうにいる。
――西片さんは新潟県ご出身とのことですが、お生まれは新潟のどちらですか。
〈西片〉燕市です。
――燕市といえば三条市とともに、江戸時代からの鍛冶技術を受け継ぎ、金物、金属加工の町として知られ、高品質なものづくりが世界的にも評価されています。いわゆる職人の町なのかなと思いますが、実際はどんな雰囲気のところなのでしょう。
〈西片〉生まれたときは分水町という町で、合併して燕市になったのですが、周りは田んぼが多くて自然が豊かなところです。田植えの時期はカエルの鳴き声を聴きながら寝ていました。あまり地元にいるときは感じてなかったのですが、上京してから燕市の金属加工のすごさを目にすることが増え、テレビなどで紹介されると誇らしく感じるようになりました。あとはラーメン好きな人も多くて、新潟5大ラーメンの背脂ラーメンが美味しいです。
――はらぐろさんは……?
〈はらぐろ〉大阪で生まれ、埼玉県の川口で育ちました。
――そういえば、川口も鋳物の町ですね。焼きうどんも有名だとか。
〈はらぐろ〉鋳物の町というのは学校で教わりましたが、焼きうどんは初耳でした(笑)。
どっちかというと、両親親戚はみんな関西で、精神としては関西人として育ったけど、自分は関西人を名乗れるほど、住んでないから関西を知らない。そうかと言って埼玉の川口は住みやすくて良い場所だけど、ベッドタウンという感じで土地の文化を感じにくい。だからずっと故郷とか土地に根ざした文化みたいなものに対して漠然とした憧れがあります。信也さんは例えば水とか食材とかを買うときに産地を選べるなら間違いなく新潟産のものを買うし、田んぼをみると故郷を懐かしんでいる。そういうとき、故郷という感覚があるって羨ましいなと思います。
――子どもの頃から絵はお好きでしたか。
〈はらぐろ〉大好きでした。ずっと何かしら絵を描いたり工作したり、おじいちゃんが美術館巡りが好きだったので、夏休みに連れて行ってもらうのも好きでした。
〈西片〉特に好きだった恐竜をいっぱい描いたり、段ボールでゴジラやガメラの着ぐるみを作って遊んでいました。
――他の科目はいかがでしたか。
〈はらぐろ〉得意とか好きな勉強について振り返ってみていま思うのは、子どもの時から図工や美術は大好きだし、高校のあたりから数学がちょっと楽しいって思い始めて、学校では習わなかったけど、いまは哲学の世界にも夢中です。美術と数学と哲学に共通しているのは、知識を覚えないとできない勉強でなく、仮になんの知識がなかったとしてもひとりで向き合いながら、自由な発想と直感を活かして自分が表現したいことに向かっていく、そういうプロセスの自由な世界が好きなのだと思います。
〈西片〉小学校のときは図工が得意で、毎年野鳥の絵を描く授業があったのが特に楽しかったです。逆に中学校になってから美術の授業は、なぜか自分にはハマらず苦手で、成績も悪かったです。でも好きだった野球選手やアメコミのキャラクターを描いたりするのは好きでずっと続けていました。あと理系はだいたい苦手でしたね。
〈はらぐろ〉苦手といえば……中学校のときは美術以外ほとんどみんなダメでした(笑)。テスト勉強とか、丸暗記とか、受験のための勉強みたいなものは全然頭に入って行かなくて。特に英語とか、歴史とかは苦手でした。
――お二人ともずっと絵が好きだったということで、大学は絵の方に進路を取るのは当然のことのように思うのですが、それぞれの大学を選ばれた理由を教えてください。
〈西片〉高校の美術の授業で好きなアーティストのCDジャケットを作る課題で、先生にデザインを褒められてデザインに興味を持ち、地元の新潟にもデザインが学べる大学があったので長岡造形大学を選びました。大学の卒業展示会を見て、自分もこんなふうにやってみたいとワクワクしたのもありました。
〈はらぐろ〉中学の時の受験勉強嫌いにも通じるのですが、とにかく入試のためにやらされるデッサンがどうしても嫌で。当時東京家政大学の造形表現学科には入試にデッサンがなく、自由に自分を表現する課題で、その際先生が「僕たちは君たちの技術でなく感性を見ている」とおっしゃっていたことに感動し、この学校で学びたいと思いました。また家政大は入学時点から何科と限定されず、絵画、陶芸、デザイン、インテリア、染織りなどたくさんの表現を学べる学校で、ジャンルに縛られずにやりたいことなんでもやらせてもらえる自由なところに強く惹かれました。
――いまの作風になったのはいつごろでしょうか。
西片〉大学時代は漫画家の松本大洋さんの絵に影響を受けて、デザインの課題でペンと水彩タッチのコミカルなイラストを描いて広告化したのが自分の中でしっくりきました。その絵を追求しているうちに、先生から「西片の絵はもっと色を強くした方がいいよ」と助言してもらったことがきっかけで、みんなが敬遠して使わないような蛍光色を多用したら面白いんじゃないかと思うようになり、いまの作風になりました。篠原有司男さんを見たのも自分の中のリミッターが外れたきっかけだと思います。あとは普段はあまり喋る方ではないので、絵に自分の秘めたものを大声で叫ばしてるイメージです。
〈はらぐろ〉もともと岡本太郎の影響で土偶や土器に興味を持ち、大学の頃からピカソや岡本太郎のような原色の強い色彩と、土偶のような偶像的なシルエットが組み合わさった「人」の絵を描くようになっていきました。その後、信也さんと一緒に生活するようになり、信也さんは本当に生き物が好きで、近所の道をちょっと一緒に歩いただけでも、すぐに鳥や虫を見つける姿が自分にとってとても新鮮なことで。そこから目で見えなくても、愉快な精霊みたいな存在がそこいらじゅうにいるような感覚がわたしの中にも湧いてくるようになり、昔から描いていた偶像的なシルエットの絵が、人と限定するよりも動物や虫や植物などをヒントにもっと自由な姿で存在する世界を描く、いまの作風へ変化していった感じです。
■ライブペイント会場で初めて出会う。
――お二人はライブペイントなどもされていますね。お二人が出会ったのはいつでしょうか。
〈西片〉2015年の5月です。東京ビッグサイトのライブペイントイベントでした。そのとき初めての経験で、やるにあたってライブペイントというものを調べようと思ったら、当時の表記「腹黒ピカソ」というすごい名前の人に行き着いて。その人がたまたま同じ会場で一緒に絵を描くことを知って、一緒にライブペイントできることが、会う前から楽しみでした。会ってみると、あんなすごい絵を描いているのが、こんな小柄な女の子だったとは衝撃でした。
〈はらぐろ〉わたしはこの時すでに色んな場所でライブペイントをする機会に恵まれ始めていて、逆にあのときの自分は少し慢心していたと思います。信也さんに初めて会ったとき寡黙な感じの人だなと思っていたら、初めてのライブペイントだというのに、強烈な色彩の絵が次々に溢れていく様に度肝を抜かれて、わたしの絵はまだまだだったんだと襟を正される気持ちになったのをよく覚えています。その時わたしから信也さんに声をかけて、わたしが当時やっていたライブペイントのイベントで一緒に絵を描こうと誘ったことがきっかけで、一緒に活動していくようになりました。
――いいですね! 人生の目的が同じ方向に向いているって素晴らしいことだと思います。ライブペイントの楽しさ、難しさはどこにありますか?
〈西片〉楽しいところは短い時間でどんどん進めていくので、見ている人が驚いてくれたり、完成した絵を見た反応を見るのが楽しいです。こんな時間でこんなに描いたぞ!という達成感もありますね。難しいところは、自分の中で失敗したなと思っても時間がないので、修正が難しいです。その影響でライブペイント当日の朝は不安でちょっとおなかが痛くなります(笑)。
〈はらぐろ〉わたしも見ていただく方の反応を感じられるのが楽しいです。絵の展示だとなかなか絵に興味がある人しか足を運ばないと思うし、感想まで伝えるって難しいことだと思います。でもライブペイントはお祭りやイベント会場などで描くことが多く、普段絵を観る人も観ない人も、大人も子どもも観てくれる。そしてイベントの活気ある雰囲気が後押しして、描いている絵に対する言葉や会話が自然と聞こえてきます。特にわたしの絵の場合、何を描いているのかよくわからない絵が多いので、それに対してみんながみんな違った感想を好き勝手にいろんなイメージで言ってくれるのが聞こえてくる日は楽しい絵が描けたぞって、特に嬉しくなります。
――難しさについてはいかがですか。
〈はらぐろ〉難しさは体力・気力・状況判断が一気に必要なところです。その日の天気やキャンバスの状態などによって絵の具が乾くペースや絵の具ののり具合も全然違うし、そういう現場の状況を考慮しながら、与えられた時間内でいかに現場の空気も取り込みつつ展開のある絵が描けるか。また一日中立ったり座ったりしながら屋外で大きな絵に挑むのは結構な体力勝負で、普段こもって絵を描く生活から考えると年齢を重ねるごとに大変になってきました(笑)。でもそういう、限界のなかで自分を試すかのように描かされる絵だからこそ、限界を超えたものを感じることができるんです。
――ライブペイントとは少し違いますが、はらぐろぴかそさんは、ドラマのセットで絵を描かれていますね。たとえば佐藤勝利と高橋海人が主演の「ブラック校則」。校舎裏の壁やスクラップ工場(?)の壁にすごくのびのびとした絵が描かれてあって、このドラマ自体大好きなんですが、実はこの絵にも注目していたのです。それを描かれたのがはらぐろぴかそさんだったと知り、びっくりしました。あれはどういう経緯で描かれたのですか。
〈はらぐろ〉「ブラック校則」をご覧いただいていたとのこと、嬉しいです! あれは映画がメインでドラマ版もテレビ放送されていた感じだったかと思います。もともと別の映画で絵を描かせてもらう経験があって、そのとき美術スタッフの方と知り合いになり、そのつながりでご紹介いただいて描かせていただきました。もともと「ブラック校則」の壁画もその美術スタッフの方々で進められる予定だったところ、主演のモトーラ世理奈さんが校舎裏に壁画を描くシーンがあって、それが劇中のキーとなる部分なので印象的な絵がよいけれど、なかなかこれというデザインが定まらないと停滞していたところ、そういえばはらぐろぴかそって変な名前の子いたなと、わたしのことを関係者の方が思い出してくださり、いくつか絵を描いてみたところそれを気に入っていただいて採用に至った感じです。メインで手がけたのは校舎裏の壁画のデザインですが、スクラップ工場のシーンのカラフルな壁については基本、美術スタッフの皆さんが制作されて、一部撮影の合間にわたしも上から絵を描かせてもらったり、わたしのデザインをもとにした絵を美術の方々がその壁に描き足してくれました。
――絵って、画用紙の中に描かないといけないという悪しき教育が浸透しているせいか、絵を描くのが嫌だという子どももいるようですが、それを壊したところに絵本来の輝きが生まれる。「ブラック校則」というドラマにぴったりの壁画でした。思えばキース・へリングなどニューヨークの地下鉄に絵を描いたりして人気でしたし、バンクシーなどもそう。キャンバスと壁とでは、向きあい方が違うと思いますが、そのあたりの心構えなどいかがでしょうか。
〈はらぐろ〉わたしも自由を求めて絵を描いているので、学生が自由を求めて掴み取ろうとする、「ブラック校則」の映画に絵を起用していただいたこと、とても誇りに思っています。壁に描くこと、これは壁画やライブペイントにも共通して言える部分なのですが、環境の中に自分の絵を生むというところがキャンバスとは大きく異なると思います。環境からエネルギーをいただいて、自分の絵が生かされる。昔ライブペイントばかり毎週のようにやっていた頃、家でキャンバスに絵を描こうと思っても全然いい絵が描けないことがありました。それはいままで自分の力で良い絵が描けていたのではなく、環境がパワーをくれるから、良い絵が描けていたんだと痛感して。
――環境からエネルギーをもらうって、わかる気がします。
〈はらぐろ〉たしかにキャンバスという枠からはみ出して直接壁に色を塗る時の興奮が壁にはありますが、だからといって壁のほうが自由でキャンバスのほうが不自由かと言われるとむしろ反対で、キャンバスは個人の自由で好きに描けるけど、壁は直接街の雰囲気や誰かの暮らしに影響を与えるので自分勝手にするべきではない。でもだからこそ、その場所で行き交う人の空気感や熱量、街や場所の文化や活気など、そういうものをリアルタイムで汲み取った上で、感謝の気持ちを込めた自分の表現として絵に還元出来たときは、自分の力を超えるほどに環境が絵に働きかけてパワーを与えてくれる。この感動はライブペイントや壁画でしか味わえないものがあります。
〈西片〉自分もそう思います。屋外の壁画では壁が凸凹してたり、換気口が付いたりしている所もあったりして、必ずしも描きやすい環境ではない場合もあります。でも逆にその突起物をキャラクターにしたりして環境を活かす楽しさもあります。街の雰囲気を感じてその壁だからできた壁画が出来たときはたまらないです。キャンバスは持ち運んで色々なところで展示できますが、壁画はその街の一部になる感覚がよいですね。
■隣同士のアトリエで制作、ときには一緒に。
――話は変わりますが、尊敬している作家の方はいらっしゃいますか。ピカソや岡本太郎、篠原有司男以外で(笑)。
〈西片〉大学の先輩で、作家をしている倉持至宏さんです。卒業後もアート活動を続けるきっかけを与えてくれた方で、その後も一緒に展示をしたりして、作家活動をすることへの影響をたくさん与えてくれました。自分の世界がぶれないところがすごいです。
〈はらぐろ〉最近は特定の作家というより、民芸品や海外のプリミティブなアートがすきでアフリカのマコンデ彫刻や泥染め布、メキシコのアレブリヘや、モラ刺繍やカンタ刺繍など、土地や暮らしに根ざした根源的なアートや文化に感動を覚えます。あと、茨木のり子さんの詩、若松英輔さんの世界を解釈されることばの力など、詩やことばの世界の方々へ尊敬の念を抱き、創造の原石みたいなものをいただいています。
――制作は決まった日に、集中して行うのでしょうか。それとも毎日少しずつ描かれるのでしょうか。ちなみに篠原有司男さんは、朝起きた瞬間からバーッとイメージが湧いて、バンバン描いちゃう、と言っていましたが。
〈西片〉自分は描きたいものが湧いてきたときに描きますね。普段はデザインの仕事もしているのですが、その途中でフッと思いついたり、帰り道とかで思いついたアイデアを書きためておいたりして、描くぞってタイミングで描きます。構図を考えたり配色を決めたりする作業は時間がかかるので特に集中して行います。後半のペン入れ(絵のアウトラインや影を入れる作業)は勢いでガーッと進めちゃいますね。
〈はらぐろ〉わたしは気分が乗っている日はいくらでもイメージが湧いてきて夢中に絵が描けるし、気分が乗らないときはいくらやっても全然描けないです。気分が乗らないときは、一旦絵から離れて好きな時間を過ごしながら、描きたいイメージが溢れてくるのを来るのを待ちますね。でも確かにわたしもここ最近は朝が特に集中力が高まって想像力も敏感な感じがあります。
――お二人ともメインの画材はアクリル絵具かと思います。どこに惹かれますか。
〈西片〉大学時代からずっと使っているのがアクリル絵具です。発色が強いのと、早く乾くので次々と重ねて色を塗ることができ、直感的だからいいです。
〈はらぐろ〉もともとライブペイントを中心に活動していたので、即興で絵を描いてもすぐに乾き、上から色を塗り重ねても下の色の影響を受けないアクリル絵の具が重宝したので自ずと中心になっていきました。アクリルは便利で使いやすいのでよく使っていますが、自分の表現は絶対アクリル絵の具なんだ! とは思っていないです。一時期染色にハマっていた時は、豆乳で布に絵を描いて、コーヒー染めをして絵を浮き上がらせてみる実験をしたり、ちょうどいまは、ずっと使ってなかった顔彩を偶然引き出しから見つけて、試しに使ってみたらそれがとっても楽しくて、顔彩を使った表現を実験中です。
――描き始める前にアイデアスケッチなどはされますか?
〈はらぐろ〉生き物のカタチとか色とかのイメージはドローイング的に描き溜めて、それをもとに構成を考えたりしながらアイデアをスケッチします。たくさん描く方なのかはわかりませんが、最近ドローイングやスケッチの重要性に気がつきはじめたところです。
〈西片〉描きたいものをまとめるときにアイデアスケッチをやります。ペンでガーっと殴り描きみたいにするので、自分以外の人が見たら何が描いてあるかわからないと思います。
――展示が近くなって、描かないといけないのに気分が乗らないときはどうしますか?
〈西片〉ライブペイントもそうなのですが、お尻に火がついた方が、迷いが少なくなるので展示前はどうにか自分を奮い立たせて描きますね。それか展示終わったらどこに遊びに行こうかなとか考えたりして、先の楽しみを増やして頑張ります。
〈はらぐろ〉これはむずかしいのですが、やらなきゃと自分を縛るとますます描こうとしても描けないので、「やらなくてもいい」と自分のなかで自分を許すと逆に「やってもいいな」みたいな気分に変わってきます。あとは、いきなりキャンバスに向かったり構図のある絵を描こうとしても描けないけど、スケッチやドローイングを描いたり、本を読んだり、新しい画材や描き方を試したり、日記とかに言葉をガーッと書いたり、そういうことをしているうちにだんだんイメージが膨らんでいく。種を植えなきゃ花は咲かないように、時間がなくても絵が描けない時こそ、自分の中に種を植える作業が必要なんだと思い返します。
――制作中に音楽はかけていますか?
〈西片〉音楽がある方がリズムに乗って描けるのと、気分を高まらせるためにも好きなロックバンドの曲なんかをかけながら制作しています。
〈はらぐろ〉わたしはひとりで制作するときは、ほんとうに集中しているときと、逆に気が散って集中できないときは無音です。音楽があったほうが楽しい感じのあるときは音楽をかけながら描きます。
――ちなみにお二人のアトリエは、別々ですか? それとも一緒の部屋?
〈西片〉アトリエは隣同士で別々の部屋があります。お互い集中するためにそれぞれこもって制作する時もあれば、相手の部屋を覗きに行ったり、一緒の部屋で一緒に作る時もあります。
〈はらぐろ〉ときどき信也さんの部屋をのぞきに入って、よい絵を描いているのをみると悔しくなってよりやる気が燃えたりもします!
――お互いがよきライバルにもなっているのですね。素晴らしい! ところで、制作でこだわっているのはどんな点でしょうか。
〈西片〉作業的にはハイライトと影を入れるところです。どんな平面的な絵でもハイライトと影を入れたら立体的に見えるので、どんどん浮き出てくるのが楽しいです。あとは自分が表現したかったこと、やりたかったことが出せているか。よい意味でどれだかバカになれたかが重要です。
――どれだけバカになれたか、というのは、頭じゃなくて肉体で描けたか、ということでしょうか。
〈西片〉両方ですかね。頭で考えたバカバカしいアイデアを、肉体を使って一生懸命に実現できたか、です。
〈はらぐろ〉わたしの場合は、あえて言うなら、こだわりに凝り固まらないのがこだわりかもしれません。自分の変わらない根っこの部分や、グラデーションや色彩感覚などの自分にとって気持ちのいい表現、お気に入りのモチーフやカタチを大切にする気持ちも大事にしていますが、それと同時にこだわりに固執して表現したい感覚が窮屈にならないよう、新鮮な挑戦をする気持ちを持ちながら、いろんな表現や技法を試して、自分の中の固定観念を疑うことに臆せずに絵と向き合いたいと思っています。
――いつも心がけていることはありますか。
〈西片〉金曜日の夜は必ず行きつけの焼鳥屋で焼鳥を買って帰ります。
――焼鳥がお好きなんですね。
〈西片〉心の支えです。ビールは月曜〜木曜は飲まないで、金曜の夜から解禁します。あとは自分で食べる焼鳥は串からはずさない(笑)。
〈はらぐろ〉直感を信じること。あたまで理解するよりももっと早く、直感で感じ取ることのほうが、いつも本質をとらえていて、いい方に向いていきます。そういう理性での理解は追いつかないけれど、なんとなくそうだと断言できる感じ。そんな感じのことを「不思議」というのだと思うのですが、そういう直感が受け取った不思議を、不思議であるがままに愛でながら、理性を使って時間をかけながら整理していくようにしています。
――作品をご覧になった方にメッセージをお願いします。
〈西片〉ご覧いただきありがとうございます。カフェ目的で来ていただいた方々に、自分たちの絵がどう見えたか大変気になるところです。もし二人の絵を見て何か少しでも刺さったと思っていただければ嬉しいです!
〈はらぐろ〉作品展をご覧いただきありがとうございます! 作品は絵を描き終えたときが完成なのではなく、見てもらって感じてもらって自由に解釈してもらって、はじめて完成するものなのかも知れないと最近思うのです。少しでも何か感じてもらえることがあれば嬉しいし、会場のノートなどにその感じたことの片鱗だけでも残してもらえると、わたしたちの糧となります。よかったらぜひ!
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