てんてん 作品展 遊びゴコロ
2022.6.17[金]- 8.2[火]開催
【第10回】てんてん (永井天智)作品展 遊びゴコロ
切り絵作家。1995年東京生まれ。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科を卒業。隠し絵、騙し絵のような切り絵。平面から立体まで、常に一つ一つの作品にたくさんの遊びゴコロや物語が詰まっている。一方、舞台の演出部としても幅広く活動中。
【近年の切り絵活動】
2017年 渡辺えり「40th Anniversary Concert~夢で逢いましょう~(背景切り絵美術)」/スパイラルホール
2018年 オフォス3〇〇公演「深夜特急~めざめれば別の国~」(作品画像提供)/下北沢 ザ・スズナリ
2019年 ノラクラフト旗揚げ公演「拝啓 空(くう)の中より」(キャラクターデザン・作品提供)/新宿 at Theatre
2020年 CULTURE GASSHUKUロゴデザイン
2021年 紙芝居「サヤエンドウじいさん」
【舞台の仕事】
2017年「黒塚家の娘」/シアタートラム、「ワーニャ伯父さん」/新国立劇場小劇場、「One Green Bottle」/東京芸術劇場East・ミョンドン芸術劇場、他
2018年 「舞妓はレディ」/博多座、「お蘭、登場」/シアタートラム・サンケイホールブリーゼ、「出口なし」/新国立劇場小劇場・サンケイホールブリーゼ、他
2019年 「恋のヴェネツイア狂騒曲」/新国立劇場 中劇場、「風博士」/世田谷パブリックシアター、他
2020年 「桜の園」/シアターコクーン(新型コロナウイルスのため企画中止)、他
2021年 TEAM NACS 第17回公演「マスターピース~傑作を君に~」/全国ツアー、「友達」新国立劇場 小劇場・サンケイホールブリーゼ、「My Fair Lady」/全国ツアー、他
3時のおやつ
86451(春よ来い)
対決!白黒カブトフィールド
作品および作品画像の著作権は全て作者に帰属します。当社および著作権者からの許可無く、掲載内容の一部およびすべてを複製、転載または配布、印刷など、第三者の利用に供することを禁止します。
これまで油絵、日本画、木版画、写真などさまざまな分野の作品をご紹介してきた365カフェアートギャラリー。記念すべき10回目にあたる今回は、切り絵作家、永井天智さんの登場です。文字通り、紙をカッターで切り抜いて描いた「切り絵」は、それ自体が精緻な絵画であるとともに、それを浮かせて光を当てると、これまたまったく違った幻想世界が出現します。一方、舞台美術の世界でも活躍する永井さん。切り絵と空間芸術との関係は?など、制作の秘密に迫ります。作品展と併せ、ぜひお楽しみください。
(インタビュアー 株式会社サンポスト 前田 敏之)
■4歳の頃から演劇が好きに。
――現在、切り絵作家としての活動と、舞台の仕事を両立されているわけですが、切り絵はいわば小さな世界、片や舞台美術は空間全体に関わる大きな世界。まったく違うように思うのですが、どう折り合いをつけているのでしょうか。
〈永井〉 折り合いというよりも併行してやっているといえばいいでしょうか。確かに二つの仕事は関わる人の数も、仕事内容も全然違います。舞台の仕事としては、演出部として小道具制作や管理、稽古場の仕込み、黒子(上演中の転換作業)などのあらゆる業務を担当しているのですが、ものづくりのプロの方々と現場を共にすることで、そのノウハウを学べたり、次なる切り絵制作のヒントを得たりすることもあるんです。時には、舞台の仕事で関わった方から切り絵のお仕事をいただく機会もあります。例えば、演出家であり女優でもある渡辺えりさんから依頼を受け、舞台美術の一部として使っていただいたり、舞台の仕事で関わった方に紙芝居やロゴマークのデザインなどを制作させていただきました。二つの仕事はばらばらのようで、僕の中では少しつながっています。
――武蔵野美術大学の空間演出デザイン学科を卒業されていますが、主にどのようなことを学ぶ学科なのでしょう。
〈永井〉 入学して一年くらいは、自分の目指す進路以外のことも学びます。舞台を目指す人がファッションやインテリアを学ぶといった具合です。二年目からは各コースごとに選択して行き、それぞれの分野の最前線で活躍されている教授から専門的なことを学びます。しかし、どのコースに進もうと根本的なものづくりということは変わりません。専門的なことを学ぶことより、自らアートについて考えたり、ものづくりの考え方を学ぶ場だったように思います。
――卒業されるとみなさん舞台美術の方に進まれるのでしょうか。
〈永井〉 空間演出デザイン学科の中にはいろいろな分野が混在しており、かなりまちまちですが、ファッション業界、インテリア(空間デザイン)業界、舞台業界、アーティストが多い印象です。
――そもそもなぜこの学科に進学されたのですか。
〈永井〉 当時、舞台の照明に興味があったことが大きく、最終的な決め手になったのはそこだと思います。他の科も受けたのですが、空間演出デザイン学科の試験を受けたときに出たデッサンのモチーフを、前日にたまたま描いていたり、今思うと運命的な偶然があったような気もします。
――前日に描いていたモチーフってなんでしょう。
〈永井〉 りんごです。デッサンの試験のためにたまたま描いていました。
――舞台の照明に興味があったということは、かなり演劇をご覧になっていたのでしょうか。
〈永井〉 はい。両親ともに演劇が好きで、特に母に、4歳の頃からよく連れて行ってもらっていたため、自然に好きになったのだと思います。
――絵やその他の芸術についてはいかがですか?
〈永井〉 絵を描くというより、折り紙や工作など、物を作るのが好きだったと思います。特に切り絵の前は、折り紙に長いことハマっており、小学生の頃、折り紙でいろいろなクワガタを作り、バトルさせるゲームを流行らせたことがあります。テレビゲーム禁止の家庭だったので、自作の遊びを友達に布教(?)していました(笑)。その延長線上で、大学時代も紙について探求したり、折り紙という再現可能なアートについて研究してみたりするなど、子どもの頃の興味がそのまま今の切り絵にまで至っているように思います。
――大学の授業で印象的なことはありましたか?
〈永井〉 僕が舞台の世界に入るきっかけを作ってくださった舞台美術家の堀尾幸雄さんが、今まで観てきた演劇の中で、かっこいいなと思った舞台美術について講義されたことがあり、すごくわくわくしたのを覚えています。
――具体的には、どういう内容の講義だったのでしょう。
〈永井〉 堀尾さんがご自身のデザインされた舞台美術について、映像や画像を交えて裏話や雑談交じりに紹介していくというものでした。中には僕が観てきた全く違うテイストの舞台美術がどちらも堀尾さんのデザインされていたものだったと知り、驚いたのを覚えています。
――それは貴重な体験でしたね。
■切り絵のサークルで褒められて。
――ところで、子どもの頃から折り紙でクワガタを作って……とのことですが、切り絵との出会いはいつでしょうか。
〈永井〉 大学に授業で、作品の一部に切り絵で蝶(切り絵という意識で作ったものではありませんでした)を作ったのですが、それを先輩が見て、切り絵サークルの勧誘を受けたのです。大学3年のときでした。
――芸術系の大学にはふつうにあるサークルなのですか? それとも武蔵野美術大学だけ?
〈永井〉 あってもおかしくは無いとは思いますが、あまり聞いたことはありません。僕が知らないだけかもしれません(笑)。ちょうど年賀状用に何か絵を描こうとしていたので、未年をテーマに切り絵をしました。とにかく切ってみようと自由に作ったのが幸運にも褒められて、まんまと嵌ってしましました。
――勧誘したいのだから褒めますよね(笑)。けなされたらサークルに入りませんから。なんという名前のサークルですか。
〈永井〉「タルサトルソ」です。今は活動していないです。当時部員は6名くらいでした。
――でもそれは永井さんにとって運命の出会いでもあったのでしょうね。
〈永井〉 切り絵の魅力は、機械では到底表現できないような味わいを、手で切ることで表現できるところです。同じデザインの絵を切っても、毎回違う味が出るところが、アナログな作業を通じた切り絵でしかできない表現だと思っています。また、切り絵は未開拓なアート分野でもあると思います。
――それは切り絵をやっている人が少ないということですか?
〈永井〉 作家の人数ではなく、その内容です。一般的に切り絵は細かさという技術的な部分に目が行きがちですが、例えば見れば見るほど面白い絵柄や、紙以外の素材を用いたり、立体作品にしたりと、いろいろな分野とコラボすると可能性が広がると思います。そういった、今ある「切り絵」のイメージを超えていく実験をもっとしてみたいですね。近年は探求のひとつとして、「隠し絵」的な見せ方にこだわっています。「切り絵だからこそ面白い」作品づくりを目指したいですね。
――具体的にはどういったものでしょう。
〈永井〉 たとえば絵本の「ミッケ!」のように、ずっと眺めていても楽しくて、見るたびに新しい発見があるようなものを作りたいと思っています。
■必要なのは紙とカッターと糊。
――切り絵の手順を教えてください。
〈永井〉 人によって違うと思いますので、あくまで僕の場合は、ということになりますが……。①エスキース帳にスケッチをする。②ざっくりと下絵を描く(考えながら切っているので、細かく下絵を決めたりはしません。作品によっては別の紙に描いて2枚まとめて切り、最後に剥がすこともあります)。③切る(切りながら下絵を描き足したりすることもあります)。④台紙に貼る。⑤額装する。
――切ったり貼ったり、楽しそうではあるのですが、自分が永井さんの作品のような精緻なものができるとは到底思えません(笑)。
〈永井〉 切り絵と言うと紙を切った平面のイメージが強いと思うのですが、意外と自由な作品づくりが可能なんじゃないかと思っています。僕の作品には、立体物や紙以外と融合させた作品などもあるのですが、立体物は基本的に展開図を考えてから、その型紙を切っています。紙以外が混ざる場合は、正直なところ、感覚で作りながら決めています。
――どうも技法について知りたくなってしまいますが、思えば油絵を前にして、どういう風に描くのですか、とはふつう聞かないですね(笑)。漠然としすぎていますから。まずは切り絵の繊細な魅力を楽しみたいと思います。ところで、どんな道具を使うのでしょう(って、またまた細かいことを聞いてしまいますが……)。
〈永井〉 デザインナイフ、ハサミ、糊、シャープペンシル、消しゴム、カッターマット、爪楊枝、金定規くらいだと思います。正直、切り絵は失敗して切り落としてしまったりすることが、時たまあります。細かいからこそ、糊と爪楊枝を使って、実は切るのと同じくらい繊細な修正作業をしています。
――切り絵に適したテーマとか、逆に難しいテーマってあるのでしょうか。
〈永井〉 蝶などは割と多いテーマだと思います。紙自体が四角形よりも何かしら形になっていた方が切りやすいです。
――切りやすいというのは、切り出すきっかけになりやすいということですか?
〈永井〉 そうですね。切る範囲を形として制限されていた方がその範囲に落とし込む絵を決めやすいんです。難しいテーマは……、基本的にはなんでもできると思いますが、色をつけたりしない限り、1色の紙から切り出すので、シャボン玉とか霧や湯気みたいな淡いものを表現するのは難しいです。
■堀尾幸男氏の舞台美術に憧れて。
――切り絵以外についてお伺いします。演劇、映画、絵画、小説、音楽など、なんでもいいのですが、とくにこれに注目している、これが好きというのはありますか? たとえば、劇団は〇〇に注目、その理由は~とか。
〈永井〉 たまたま出会えた作品の中で面白かったものを挙げますと、演劇は三谷幸喜さんの「国民の映画」。長い上演時間を経て迎えるラストシーンを見ると、舞台美術から照明から脚本まで、いろいろなこだわりや意図が見えてくるような気がします。ここまですごいのは中々お目にかかれないと思っています。
――ついつい俳優さんの演技にばかり注目してしまいますが、やはり舞台美術や照明などもしっかりご覧になっているのですね。
〈永井〉 この作品は堀尾幸男さんが舞台美術をされているのですが、僕が後に堀尾さんに師事したいと思ったきっかけの作品でもあります。
――堀尾さんの舞台美術は、1995年の野田マップ「贋作 罪と罰」で初めて見たのですが、それこそ息を呑む迫力と美しさで、見事というほかありませんでした。その後も、野田作品の「キル」「エッグ」「逆鱗」など、どれを取っても素晴らしい出来だと思いますが、永井さんは、堀尾さんの舞台美術のどういう部分に一番惹かれますか?
〈永井〉 舞台のセットや背景を作品に合わせてデザインしつつも、舞台全体を一つの大きなアート作品に変えてしまうように感じる所でしょうか。野田マップですと、「The Bee」は大きな紙一枚だけの美術で、演出により切られたり破られたりすることで、どんどん表情が変わっていくのがすごく印象的でよく覚えています。
――舞台美術如何で、劇も印象がぜんぜん違ってきますね。
〈永井〉 そうですよね。「国民の映画」は何度も再演されていますが、また上演されるなら観に行きたいです。他には、演劇だと劇団〈ままごと〉の「わが星」や劇団〈イキウメ〉の前川知大さんが演出された、「遠野物語・奇ッ怪 其ノ参」などが好きです。
――演劇以外ではいかがですか。
〈永井〉 絵画などの分野では、画家のエッシャー。小学生の頃に観た展覧会にとてもわくわくし、今でもとても好きな作品だらけです。エッシャーのだまし絵はひとつの作品ごとに楽しい発見が詰まっていると思います。
――よくわかります。永井さんの作品も、だまし絵ではないですけれど、どこかエッシャーに似たところがあるような気がします。
〈永井〉 本当ですか?(笑) 光栄です。少なからず影響を受けているのだと思います。その他だと注目しているのは、デザイナーでアーティストの吉岡徳仁さん。大学生の頃に知り、東京都現代美術館で開催された作品展がとても良く、インスタレーション作品「トルネード」や、「虹の教会」、テーブル照明「ToFU」など、心を動かされた作品が数多くあります。
――東京オリンピックの聖火リレーのトーチをデザインされた方ですよね。すごくシャープなラインが印象的です。「ToFU」は、照明というより、もはや現代美術ですね。
〈永井〉 そうですね。他にも「Water Block」というガラスのベンチからは水の流れを感じたりします。吉岡徳仁さんの作られる作品はデザインでありアート作品でもあると思います。あとは、アーティストの雨宮庸介さんも好きです。最近SNSでたまたま見かけた溶けたりんごの作品がとても面白く、作品展などに伺ったことがないので作品をSNS上でしか拝見出来ていませんが、最近注目しています。
■出張先のホテルでも切り絵を制作。
――舞台美術の仕事にも関わっておられると、各地で開催されるわけですから、出張なども多いのではないでしょうか。どんな生活パターンなのでしょう。
〈永井〉 舞台の仕事が始まると、稽古付き→仕込み→本番→ツアーがある場合は各地をそのまま飛び回っています。舞台の仕事はほとんどの日が朝から晩まであるので、家やホテルに帰ってから3~4時間くらい切り絵をして寝る生活をしています。
――出張先のホテルでも切り絵!
〈永井〉 はい。激しい仕事の後の精神統一のようなものですね(笑)舞台の仕事がない時は朝から晩まで切り絵をしています。
――それだけ集中しないと切り絵は難しいのですね。
〈永井〉 かなり時間はかかります。でも長時間やりすぎると失敗するので、自分の集中できる時間を把握しておくことがとても大切です(笑)
――では、質問をがらりと変えますが……好きな食べ物、嫌いな食べ物はなんでしょう。
〈永井〉 今は完治していますが、子どもの頃に卵アレルギーを持っていたのでその影響で食べられるものが少なかったり、特別メニューを出していただいたりと、食べなければという意識が働くことが多かったので、嫌いなものは、今はなくなりました。逆に出たものはすべて食べてしまう傾向にあります。好きな食べ物は、ラーメン、プリン、マンゴー、肉じゃがです。
――(笑)。関連性のない回答に思わず笑ってしまいました。失礼しました。ではこちらも関連のない質問をどんどんしますね。これから行ってみたい場所は?
〈永井〉 ルーブル美術館。あと長崎ペンギン館。ペンギンが好きなもので。
――こだわっていること、マイブームは?
〈永井〉 空を見上げること…ですかね(笑)空は時間帯や天気によって一瞬にして表情が変わり、雲の形が何かに見えてきたり、隙間から星が現れたりと、見ていて飽きません。
――子どものようです(笑)でもそんな子どもの心が、きっと重要なのですね。では、今注目していることはなんでしょう。
〈永井〉 レーザーカッターです。データさえ作れれば今はお店に持ち込んで、色々なものを削ったり切ったりできます。レーザーカッターやプロッターを使えば、切り絵を機械化したようなことも出来てしまうのですが、機械だとアナログの味は出せず見え方が全然違うんです。なので、人が出せるアナログな切り絵作品と組み合わせたり、正確な質感を出せることを利用してグッズを作ってみたりと、上手く活用したら面白いことができるのではないかなと思っています。
――先ほどおっしゃっていた吉岡徳仁さんは、工業製品とアートを見事に融合させていますが、レーザーカッターをうまく使って量産品を作って販売するのもいいかもしれませんね。勝手な思いつきですが、切り絵の服を全員が纏っている舞台も観てみたいです。両手を上げると、胴体と腕の間の切り絵地が照明を受けて微細な影を落とす……。そんな幻想的な舞台を。
〈永井〉 切り絵と照明はとても相性がよく、そういったことが出来たら面白いと思います。形式にとらわれない切り絵の使い方が出来るようなチャレンジをしたいです。もしこの先そんな機会が訪れたら、ぜひ挑戦してみたいですね。
――最後に切り絵作品をご覧になられた方、このインタビューを読まれた方にメッセージをお願いします。
〈永井〉 インタビューをご覧いただきありがとうございます。もし、作品を気に入っていただけたら、まずはゆっくりとコーヒーを片手に眺めて楽しんでもらえればと思います。眺めているとなにか発見があるかもしれません。これからも切り絵という技法を元にいろいろなことにチャレンジしていきたいと思いますので、応援のほどよろしくお願いいたします。
〒150-8330 東京都渋谷区宇田川町21-1 西武百貨店渋谷店 A館4階
JR山手線・東急東横線・京王井の頭線 渋谷駅ハチ公口 徒歩1分
東京メトロ銀座線・副都心線 出口「6」 徒歩2分
企画:編集プロダクション 株式会社サンポスト