みついえゆうさくのひきだし展 
2023.3.16[木]- 4.26[水]

365cafe art gallery 特別インタビュー
【第16回】光家有作 →ホームページ
イラストレーター。東京生まれ。
多摩美術大学美術学部グラフィックデザイン学科卒業。

誰かのひきだし

贅沢なひきだし

クレテケズレテ

【見どころ】
繊細で優しい色彩の中に浮かぶ、ほのぼのとしたユーモラスな情景。見ているだけで自然と心穏やかになれそうな、癒やし効果たっぷりの作品です。手がけたのは東京・町田市在住のイラストレーター、光家有作さん。画材を伺うと、メインは色鉛筆なのだとか。色鉛筆といえばクレヨンとともに、子ども時代から馴染みのある画材。こんなに素敵な表現が可能だったとは、と、改めて色鉛筆のよさを見直した次第です。とはいえそれはテクニックがあればこそ、なのは言うまでもありません。ひきだしの中には愛らしい動物や不思議な世界がぎっしり。光家さんならではの愛らしい世界をご堪能ください。

インタビュアー 株式会社サンポスト 前田 敏之)

■ここ数年で一番、と褒められたのは写真だった

――色鉛筆の微妙な色合いがとても魅力的です。いきなり些末なことを伺ってしまいますが、何色くらいの色鉛筆をお持ちなのでしょうか。
〈光家〉 400色くらいでしょうか。
――ええっ、そんなに。
〈光家〉 作品によって違いますが、だいたい50色くらいは使っていると思います。
――絵具と違って、水で薄めたりできないし、色を混ぜ合わせることもできないから、どうやって色の差を出すのかなと思っていました。ずっと色鉛筆なのでしょうか。
〈光家〉 色鉛筆を使い出したのは、2010年頃だと思います。
――何かきっかけはあったのでしょうか。
〈光家〉 きっかけというか、その頃、いろいろと画材を試していまして その中で色鉛筆がしっくりきたと言うか 一番使いやすかったんです。
――そもそも美術にはいつ頃から興味を持たれていたのでしょう。
〈光家〉 父親がデザインの仕事をしていた影響もあって、物心ついた頃から絵を描いていたようです。子どもの頃は、紙と鉛筆を持たせておけば、静かにしていたと母がよく言っていました。
――じゃ、ずっと家派ですか?
〈光家〉 そんなこともなくて、子どもの頃はいつも肘や膝に擦り傷を作って走り回っていた気がします。家では漫画を描いていました。
――ちなみにどんな漫画の主人公が憧れでしたか?
〈光家〉 普通にドラゴンボールなどをよく読んでいましたが、悟空に憧れたという感じはあんまりなかったですね。今思えばあだち充さんの漫画の主人公はみんな憧れだったかもしれません。
――多摩美術大学では、グラフィックデザインを専攻されていますが、印象的だった思い出があれば教えてください。
〈光家〉 グラフィックデザイン科は、デザインだけではなくいろいろなことをやらせてもらい、とても楽しかったのですが、そのせいもあって迷っていた気がします。
――迷っていたというのは、将来、どの道に進もうか、ということですか?
〈光家〉 ええ。1、2年のときは写真の授業もあり、モノクロ写真の課題を提出したら、担当の先生が「ここ数年で一番よい」と言ってくださって、え、この一年じゃなくて、ここ数年で一番?? 自分には写真の才能があるのだろうかと、写真家への道も考えました(笑)。
――それはすごいじゃないですか。どんな写真を撮られたのでしょう。
〈光家〉 その時の課題はモノクロで、僕は「老いの魅力」みたいなものをテーマにして 大樹や祖母などを撮ったと思います。他にアニメーションの制作もあって、こちらも楽しくて、広告の授業では、デザインだけじゃなくて、コピーにも興味が湧いたりして、結局、自分にはどんな仕事が向いているのか、わからなくなってしまったのです。
――いろいろな選択肢があるからこそ、悩むわけですね。多摩美術大学は、ひと学科は何人くらいなのですか。
〈光家〉 学科によって違いますが、グラフィックデザイン科は確か200人位だったと思います。
――卒業したらデザイナーになられる方がほとんどなのですか?
〈光家〉 よく分かりませんが、ほとんどということはないと思います。
――大学時代は謳歌されましたか?
〈光家〉 謳歌できなかったと思います(笑)。大学に入ったら友だちも自然にできるものだと思っていたら、まったくできず、ひとりの友人とだけ、ずーっと一緒にいた感じでした。今は、友達は無理にでも作っておくのだったと後悔しています。
――いや、数よりひとりの方と深い付き合いをして、かえってよかったのではないかと思いますが……それはさておき、こんなふうになりたい、とかこんな作家が好きだとか、目標にされている方はいらっしゃいますか。
〈光家〉 この絵は好きだ、ということはありますが、好きな作家、憧れの作家はいないかもしれません。美大を出てイラストレーターをしている割に、自分は美術にかなり疎いのではないかと思っています。
――だからこそ、他の人から影響されず、独自の世界が築けているのかもしれませんね。

■ドラマ「ふぞろいの林檎たち」に共感して

――美術に疎いとのことですが、他のジャンルではいかがですか。
〈光家〉 ドラマの脚本家の山田太一さんの作品が好きで、ドラマのDVDを買ったり、エッセイや小説を読んだりしています。世代がちょっと違うので、オンタイムで観られたのは、「ふぞろいの林檎たち パート3」以降なのですが、再放送やDVDなどで、「ふぞろいの林檎たち 1、2」「男たちの旅路」「岸辺のアルバム」「早春スケッチブック」などを夢中で観ました。
――どういうところがお好きなのでしょう。
〈光家〉 リアリティのある人物描写やドキッとするせりふが出てくるところです。日常が丁寧に描かれているので、そのぶんドラマチックな部分が、とてもリアルに伝わってきます。
――印象的なせりふがあったら、いくつかあげてください。
〈光家〉 ふぞろい林檎たちで、義雄がはるえに電話で「弱虫、卑屈、鈍感、言うなり、最低、臆病もん!」と罵倒されるせりふは面白くて印象的です。
――考えてみると、光家さんの作品にも繋がっているような気がします。かけ離れた世界ではなく、日常を大切にしているといったような、それでいて個人的には大問題が発生したりして……。奥深いです。

■自分の今ある「ひきだし」を表現

――作品制作の手順を教えてください。
〈光家〉 イラストボードに描くことが多いですが、厚みがあるためトレース台が使えません。そのため、まず別の薄い紙にトレース台を使って何度も描き直しながら下絵を完成させます。その下絵をトレーシングペーパーなどに写して、イラストボードに転写します。カーボン紙などだと線が残ってしまうので、トレペの裏に鉛筆で黒く塗るというアナログな方法でやっています。そこから硬い鉛筆で下絵をなぞってから消しゴムで目立たない程度の薄い線にします。その後、アクリルガッシュで紙全体に薄く色を塗って、その上から色絵鉛筆で色をつけてゆくという感じです。
――最初に色鉛筆の数を伺いましたが、1本の、たとえば赤なら赤の色鉛筆で、硬さもいろいろあるのでしょうか。黒い鉛筆と比較してどのくらいの硬さのものを使われているのでしょうか。
〈光家〉 硬さは色鉛筆の種類によって全然違います。硬いものはシャープに描けるのですが発色が悪かったりするので、同じ部分でも2種類の鉛筆を使って塗ったりしています。色鉛筆は硬いものでも黒い鉛筆の2B相当らしいです。
――イラストボードに描かれるとのことですが、どんな紙質のものですか?
〈光家〉 ケント紙が多いですね。
――描かれるときは、音楽などを聴きながらですか。
〈光家〉 そうですね。音楽やラジオや……。
――音楽は何をよく聴かれますか?
〈光家〉 王道のサザンやユーミンなど、日本のポップスをよく聴いています。
――どういう生活パターンなのでしょう。さしさわりのない範囲で教えてください。
〈光家〉 5時半頃に起きて朝食を作り……。
――ええっ、5時半ですか。
〈光家〉 はい(笑)。7時頃に妻と子ども達を送り出して(妻が子ども達を保育園へ送り、そのまま会社へ)……。そこから仕事などをして17時半頃に僕が保育園に子ども達を迎えに行くという感じです。夕飯は仕事から帰って来た妻が作ってくれます。21時頃に子ども達を寝かせて、その後に深夜まで制作をしたりしますが、子ども達と一緒に朝まで寝てしまうこともよくあります。
――5時半に起きたら、そりゃ夜は眠いですよね。でも実に微笑ましい光景です。光家さんの作品の穏やかさは、日々の穏やかさから来ているのですね。
〈光家〉 いえ、そんなに穏やかというわけではないですよ(笑)。
――仕事をされているときに、お子さんたちが、一緒にお絵描きしたい…ってなりませんか?
〈光家〉 ときどき仕事部屋にやって来て、絵を見て「ライオンだー」とか「ヒコーキだー」とか言っていますけど、一緒に描きたい みたいにはなりませんね。
――将来やってみたいことはなんでしょうか。
〈光家〉 いつか絵本を作ってみたいです。
――いいですね。ひきだしの作品なども、立体絵本だったらまた違った面白さがあるかもしれませんね。ぜひやってほしいです。
〈光家〉 立体絵本は考えたことありませんでした。大変そうですが、確かに面白そうですね。
――最後にひとこと、作品をご覧になられた方にメッセージをお願いします。
〈光家〉 今回のテーマは「ひきだし」です。今まで描いてきたものは色鉛筆の作品が多いのですが、アクリルガッシュの作品やミリペンなどのモノクロ作品もあったりと、割と色々なタッチの作品があります。ですので、今回はいろいろな種類の作品をご覧いただき、自分の今ある「ひきだし」を表現できればと思いました。ひきだし自体をモチーフにした作品も何点かあり、それもあって今回はテーマを「ひきだし」にしています。仕事の面でもポスターや広告、本の表紙、CDジャケット、音楽PV、お菓子のパッケージ、ウェブサイト、LINEスタンプなど、様々なタイプのものがありますので、その中からいくつかの原画も展示させていただきました。ご覧いただき、ありがとうございます。

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