松本弦 作品展 
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2021.11.19[金]-12.20[月]開催

365cafe art gallery 特別インタビュー

【第5回】松本弦さん

【略歴】
1999年 京都生まれ。現在、金沢美術工芸大学油画科在学中。

Runaway 727×606mm

8 652×530mm

For Shawn 652×530mm

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ヒップホップ文化の一画で、音楽などとも密接に関わりながら芸術活動を行っていきたいと語る松本弦さんは、金沢美術工芸大学の4年生。自由気儘に描き殴ったかのように見える作風の中に、あらゆる束縛から逃れ、自由に羽ばたきたいという強い思いが感じられます。作品にメッセージを込めるのではなく、いかに描いていて気持ちいいか、自分自身の解放へと向かうために制作しているとも語ります。なにかと閉塞感で身動きが取れなくなりそうな世の中、まずは自分を解放することから、新しい一歩が始まるのかもしれません。

インタビュアー 株式会社サンポスト 前田 敏之)

■フランドル派からヒップホップへ

――お生まれはどちらですか?
〈松本〉 京都の宇治市です。平等院鳳凰堂があるところです。
――世界遺産にも登録されている、すごくいいところですね。現在、金沢美術工芸大学の4年生ですが、なぜ金沢に?
〈松本〉 京都から金沢って特急で2時間ちょっとですから、案外近いんですよ。それに金沢って閉鎖的な環境ですけれど不便ではなくて、特に金沢美術工芸大学は古典も学べるし、現代的な作風も受け入れてくれる、そんな校風なんです。
――小さいときから絵は描いていたんですか?
〈松本〉 絵を描くのは好きでしたね。小1から高校までバイオリンも習っていました。姉がピアノをやっていたので、その影響もあるかもしれません。
――音楽の方へは行かなかった?
〈松本〉 音楽は好きでしたが、選択肢にはありませんでした。
――金沢美工は、現代美術も古典も学ぶということですが、具体的にはどんなことをするのでしょうか。
〈松本〉 基礎的なデッサンや古典技法も学びますし、ミクストメディアでの表現、インスタレーション等も課題で取り組みます。
――入学当初から今のような作風ですか?
〈松本〉 いえ、もっと写実的でした。ヤン・ファン・エイク等の初期フランドル派が好きだったので。
――現在の作品とはまったくかけ離れているようですが、フラドル派の絵画や宗教画のどのようなところに惹かれたのでしょうか。
〈松本〉 宗教画は寓意を含んだモチーフや多くの巨匠が描いている点、画家によって表現が変わる点でしょうか。初期フランドル派はヤン・ファン・エイクのラフェエル前派に受け継がれるモチーフへのピントの合い方、その絵画の中に流れる永遠性がとても好きなのです。
――ヤン・ファン・エイクといえば、「アルノルフィーニ夫妻の肖像」などが有名です。そこに流れる永遠性というのはわかるのですが、モチーフへのピントの合い方、とはどのようなことなのでしょうか。あの絵でいえば、夫妻の間に鏡があって、その中にも部屋の様子が描かれています。すべてにピントがしっかり合っていて揺るぎがまったくありません。ピントとはそういったことなのでしょうか。
〈松本〉 そうですね。
――具象から抽象に興味を持たれるようになったのはいつ頃ですか?
〈松本〉 大学2年くらいからです。
――最初に描かれたのは、どんな抽象画だったのでしょう。
〈松本〉 バスキアとかヨナタン・メーゼなどに近い作風だと思います。
――確かに、色使いとかタッチとか、雰囲気も含めてヨナタン・メーゼから影響を受けている様子が伺えます。でも、ヨナタン・メーゼは権力や欲望などを画面に封じ込めている気がしますが、松本さんはちょっと違うような……。

■リル・ピープに魅了されて

――現在はヒップホップ文化を軸に制作をしているとのこと。ヒップホップといえば、ラップミュージックやダンス・パフォーマンス、そしてニューヨークの地下鉄車両に描かれたアートを思い浮かべます。アンディ・ウォーホルなどのポップ・アーティストが、社会の事象を制作に取り込んで、例のキャンベルスープ缶などのシルクスクリーン作品を手がけたわけですが、地下鉄車両や街頭のアートを見ると、逆に自分の中から社会へ広げていこうという動きが感じられます。ちょっと話が長くなってしまうのですが、昔、上野の美術館で読売アンデパンダン展というのがあったんです。
〈松本〉 多くの前衛芸術家を輩出したなんでもありの展覧会ですね(笑)。
――その第15回のこと、高松次郎の紐を主体にした作品「カーテンに関する反実在性について」(紐で構成され作品で、紐が出ている)に、誰かが別の紐をくっつけて、それをどんどん伸ばしてついには上野駅の構内の鉄道レールに結びつけた。高松次郎の意志が、鉄道レールを通じて全国に広がってゆくような……ヒップホップとは違うのだけれど、社会とアートを完全に結びつけたのではないかと思うんです(詳しくは『東京ミキサー計画』赤瀬川原平著をご覧ください)。
で、やっぱりヒップホップのアートというと、キース・へリングを思い出してしまいます。エイズの問題にしても、積極的に社会と関わりを持とうとした。作風などは松本さんとはまったく異なりますが、ベースのところ、つまりポップ・アーティストがポップカルチャーという当時の社会文化・現象からアートを生んだのに対して、ヒップホップ・アーティストは、アートからヒップホップ文化の一部を生み出した。松本さんのアート作品から、新しい文化が生まれる、それを望んでいるのでしょうか。
〈松本〉 そうなれば嬉しいですね。
――ところで、現在もなお好きな作家というと……。
〈松本〉 やはり、バスキア、ヨナタン・メーゼ、ヤン・ファン・エイク、フリードリヒでしょうか。
――今なおヤン・ファン・エイク! フランドル派、恐るべし(笑)。フリードリヒというのは、ロマン派の画家のカスパー・ダーヴィト・フリードリヒのことでしょうか。先ほど永遠性がお好きとのことでしたが、まさに永遠。そういう意味では揺ぎなさを感じます。それでは、一番影響を受けた人は?
〈松本〉 リル・ピープです。
――カッコいい! 松本さん、リル・ピープに雰囲気が似ていますよね。
〈松本〉 ありがとうございます。彼より年上になってより一層彼の凄さを実感します。
――ズバリ、ヒップホップのどういう点に惹かれるのでしょうか。
〈松本〉 社会に反発して生まれた点です。
――確かにニューヨークの地下鉄のペイントにしても、言ってしまえば落書きですからね。でも反発しながらも、社会を変えるのではなしに、新しい居場所を作ろうとした……という解釈で合っていますか?
〈松本〉 彼らになってみないとわかりませんが、そうだと思います。
――作品を通じてなにかを伝えたい、ということはありますか?
〈松本〉 伝えたいテーマはありません。それぞれ感じ取ってほしいです。

■まず自分を愛す、ということ

――ちょっと個人的なことを伺いますね。好きな食べ物はなんでしょう。金沢は美味しいものがたくさんありそうです。
〈松本〉 干し芋です(笑)。
――なんと、古風な、というか。フランドル派の絵画のような古典的おやつじゃないですか!
〈松本〉 そうですね(笑)。
――制作はいつも決まった時間にするのでしょうか。
〈松本〉 夜から始めて朝に終わる、というパターンが多いですね。特に何時からと決めているわけではないんですが、暗くなって明るくなるまでの時間帯であれば、そのうちの1時間だけのときもあれば、朝まで描いていることもあります。
――まったく寝ないで描くことも?
〈松本〉 はい、あります。そのまま午前中の授業に出たり……。
――材料は?
〈松本〉 キャンバスに、油絵具、アクリル絵具、ペンキ、スプレー、なんでも使います。
――今はコロナでいろいろ規制されていますが、行ってみたい場所はありますか?
〈松本〉 ノルウェーです。
――それはなぜ?
〈松本〉 メイヘムの出身地なので。
――ブラック・メタルバンドですか。リル・ピープもそうかもしれないですが、自身の気持ちに忠実に好きなことをやっているって感じがします。
〈松本〉 そう、だから制作では自分に気持ちいいかどうか、にこだわっています。
――最後に作品をご覧になった方へメッセージをお願いします。
〈松本〉 If you don’t love yourself, how in the hell you gonna love somebody else?
――おお、ル・ポール!「もし自分を愛せなかったら、どうやって誰かを愛せるというのか」。松本弦作品展をご覧になって、ぜひ自分を愛して、それと同時に松本さんからあなたへの愛を感じてください。

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企画:編集プロダクション 株式会社サンポスト