月を数える
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第二回作品展
小西郁江作品展
散歩して音楽を聴いて、絵が生まれる
※小西郁江さんの作品展は既に終了しております。
※作品は引き続きWEBから購入可能です。
365cafe art gallery 特別インタビュー
【第2回】 小西郁江さん
画家。島根県出身、Art Students League of New York在籍、島根大学教育学部教育学研究科美術修了
2013~2016 Hanze University Groningen, Frank Mohr Institute, Painting (MFA) 在籍
【近年の個展】
2020年 JINEN GALLERY(東京)
2019年 『架空の風と赤い木』JINEN GALLERY(東京)
2018年 『よむ みつめる よむ』いまみや工房 (島根)
2016年 『sigh /ためいき』Cafe Tete De Bavard/WATERWORKS/横山建築事務所(島根)
【グループ展】
2021年 『Path 2021』 GALLERY ART POINT(東京)
2018年 『Connection』 村松邸(国登録有形文化財) (島根)
2016年 『SEED展vol.6』 島根県立美術館
僕らと雪山のひかり
月の光の溜まるところ
まんじゅう
小西郁江さんの作品を初めて見たとき、なぜか“懐かしい”と感じました。いったいなぜ懐かしいのか。考えを巡らして行き着いたのは、子どもの頃に見たり感じたりした風景がそこに描かれているからではないか、ということでした。空いっぱいの朝焼けや、でんと空に居座る雲。そういった自然の事物そのものを、余計なものを排除して、その核心を捉えている。大人になるに従って失ってしまった、いわば子どもの目がそこにある。だから懐かしいと感じたのではないかと思ったのです。「僕らと雪山のひかり」にしても、雪がじゃんじゃん降っているのに、わーっと叫んでそこに飛び出して行きたくなる……そんな気持ちにさせてくれます。今回は、小西ワールドを存分にお楽しみください。
(インタビュアー 株式会社サンポスト 前田 敏之)
散歩して音楽を聴いて、絵が生まれる
—やはり小西さんを理解するには、出身地である島根を知らないといけませんね。ずばり、どんなところなのでしょう。
〈小西〉 一年を通じて空が面白くて、雲のよく動くところです。
—島根の雲と東京の雲は違いますか?
〈小西〉 まったく違う気がしていて、例えば東京の冬は毎日快晴が続きますよね。気持ち良い冬の日が続いて、島根の冬と比べると寒さも穏やかで楽だと思います。翻って、島根の冬は曇り空や雨や雪が何週間も何ヵ月も続きます。2月くらいにはもう嫌になる。でもその合間に、忘れた頃に現れる晴れ間があって、それが美しくて思わず息を呑むんです。それまで薄暗いところで鬱々としているのでその反動もあるかもしれませんが(笑)、その度に感動します。
—島根県と東京の自然の色合いなどについてはいかがですか?
〈小西〉 これも違います。島根は曇りや雨の日が多く湿っているのですが、東京よりカラフルなイメージです。でも、あくまで主観的な感覚なので……。まだ東京に移って2年ですし、そのうち東京の空の色がもっと見えてくるかもしれませんね。
—ひょっとして小西さんは自然の木や草と会話したりしますか?
〈小西〉 会話はできないと思います(笑)。いつも観察はしていますが。制作する前には、外へ、できるだけ自然に近い所に行って、散歩して、ぼんやりしたり、写真を撮ったりしています。あとは音楽が必要です。
—どんな種類の音楽ですか?
〈小西〉 海外の音楽が多くなってしまうのですが、基本的に何でも聴きます。新旧のジャズをなんでも、インディ・ポップも多いです。カントリー・ミュージックみたいな雰囲気が好きです。あとは、クラシック音楽、かじり聴きですが。時々人に教えてもらって聴きます。
—それはBGMとしてかけているのですか? それとも真剣に聴いている?
〈小西〉 制作の時はBGMです。これはほんとに気をつけないと、ジャズのインプロビゼーションとかを続けて流してしまうと、意識がそっちに集中し出して絵の方を失敗するんです。絵具のメディウムを入れ忘れたり、その他いろいろ、今まで何度もありました(笑)。今は意識的に、何度も聴いている曲や、アーティスト、またはできるだけメロディアスなものをかけるようにしています。
—作品を制作する手順を教えてください。最初に鉛筆でのラフスケッチをするのでしょうか?
〈小西〉 鉛筆で下絵を描く手順は踏まないのですが、紙袋などを破った紙に、筆とアクリル絵の具でドローイングをたくさん描いてみて、形、色、構図を探します。その後キャンバスに移って、同じく、前の事は一旦忘れて、新たに探すように制作します。そういう試行錯誤の中で、そのうちこれはと思える形や色が出てきます。出てこなければ、とにかく出てくるまで続ける。体調にもよりますがそのうち出てきます。
—このあたりの感覚は、実際に描かれる方じゃないとわかりませんね。
〈小西〉 体が無意識の取捨選択をするんだと思うのですが、そういう体内の直観みたいなものを大切にしています。
—以前の作品で雨をモチーフにしたものがありますが、雨の風景ではなく、雨そのものを描いています。どのようなきっかけで雨を描くに至ったのでしょうか。
〈小西〉具体的なきっかけは忘れてしまいましたが、地元が雨の多い地域なので、雨を身近に感じているんだと思います。皆さんが普段どんな空や雲、木、光を見ていらっしゃるのかお聞きしたいです。
—皆様、小西さんへどんどんメッセージをお願いします(笑)。いずれにしても、小西さんの目を通じて、自然の要素が作品に凝縮されている。小西さんの作品を通じて、子どもの頃にじっと見ていた自然の風景というか風物を見ることができる。だから懐かしいと感じたのかもしれません。
オランダでは全員、個室のスタジオを
—ところで美術はいつごろから興味を持たれていたのでしょう。子どもの頃からですか? 小西さんと話をしていると、詩を書いたりといった、文学少女だったイメージなのですが。
〈小西〉 運動神経がないのに走り回って、怪我ばかりしている子だった気がします(笑)。でも本を読むのはすごく好きでした。実際に美術に興味を持ったのは、実は21歳の頃なんです。それまでは寝ても覚めても映画を観ていました。
—どんな映画がお好きでしたか。ベスト3をあげてください。
〈小西〉リュック・ベッソン監督の『レオン』、ウェイン・ワン監督の『スモーク』、ロドリゴ・ガルシア監督の『彼女を見ればわかること』 はよく覚えています。今でも好きです。
—略歴にあるArt Students League of New Yorkというのは、どういったところなのでしょう。
〈小西〉 ニューヨークのマンハッタン57丁目に古くからあるアート・スクールです。学位を取得できるコースもあったと思いますが、授業料を払えば1ヵ月以上から受け入れてくれました。NY在住のアーティストの先生達と、アメリカ国内外から集まったアーティストを目指す学生達という刺激的な場所だったと記憶しています。有名な批評家やアーティストの卒業生も多くいて、憧れのアーティストと同じ名前の学校に通えるという、震えるような嬉しさがありました。
—制作するのは一人でも、仲間がいると心強いですね。
〈小西〉 はい。そこで出会った先生や友人とは、その後も細々と交流があって…もう随分間が空いていますが、いつかまた行きたい場所です。
—その後で島根大学に通われています。それはまたなぜなのでしょう。
〈小西〉 学部の時に授業を受けた絵画の先生がいらっしゃった事と、実家から通える場所で大学院レベルのアートの勉強がしたいと思ったからです。
—島根大学を出てから今度は、Hanze University Groningen, Frank Mohr Institute, Painting (MFA)に行かれています。ここはどういうところなのでしょう。
〈小西〉 オランダ北部のGroningenという地方都市にある美術大学院の絵画コースです。リサーチに重点が置かれていて、絵を描くだけではだめで、プレゼンや議論やレポート作成の割合が大きいコースでした。学生は一学年5〜10人くらいで、全員が個室のスタジオ(制作部屋)をもらえて、その点では夢のようでした。
お饅頭、そしてロスコ、ルソーへ
—「月の光の溜まるところ」という作品を見たとき、西脇順三郎の「天気」という詩が浮かびました。「(覆された宝石)のような朝 何人か戸口にて誰かとさゝやく それは神の生誕の日」という……。月の光と朝の光とで、シーンはぜんぜん違うんですけれど。あるいはフランスの詩人のフランシス・ポンジュの『物の味方』に収録されている「雨」という詩や、韓国の作家、ハン・ガン小説『すべての、白いものたちの』を思い浮かべました。小西さんの作品を眺めていると、いろんな詩や文が思い出されます。それはタイトルも影響しているように思います。タイトルが絵と響き合い、別の場所に連れていってくれそうです。
〈小西〉 作品から詩や小説を思い起こして頂けるのは嬉しいです。挙げていただいたのは読んだことないので、いつか読んでみたいですね。
—その一方で、意味不明な、見る人を突き放したようなものもあります。たとえば、「まんじゅう」という作品は……、お饅頭のことですか?
〈小西〉 はい、作品タイトルの「まんじゅう」はお饅頭のことです。
—お饅頭が好きなんですか?(笑)
〈小西〉 子どもの頃は嫌いだったらしいのですが、今は好きです。地元の島根県に、ふろしき饅頭というのがあって、今は東京暮らしですが、帰ったら食べたいです(笑)。
—タイトルは先につけるのですか、それとも後に?
〈小西〉 後からつけます。できた作品を見て、またはもうすぐ完成かなという時点で浮かんでくる言葉をタイトルにします。前田さんがおっしゃるように、子どもみたいな気分に戻って、感覚的に「まんじゅう」とつけたような気がします。確かに、言われてみれば気になりますよね(笑)。
—前にお会いしたとき、マーク・ロスコがお好きとおっしゃっていましたが、どんなところがお好きなのでしょうか。
〈小西〉 ロスコについては、実は、今は以前ほど情熱的に好きという感じではないのですが、20歳くらいの時にロスコを知って、こんな絵があるのかとびっくりしました。そこからアートに興味を持つようになりました。なので、今はびっくりさせてくれたところが好きです。今でも興味はあって、よくロスコのことを考えます。
—他の抽象表現主義の作家についてはいかがですか?
〈小西〉 ちょっと時期が後になりますが、サイトォンブリはずっと好きです。ポロックは苦手ですが、彼の巨大な作品を見たときに、圧倒されたのを覚えています。
—サイトォンブリですか。小西さんのドローイングにその雰囲気がありますね。サイトォンブリもそうですが、たとえば小西さんの作品とロスコの作品は、色合いなどが似ています。しかし、小西さんは抽象化にあたって言葉を詰め込んでいる、ロスコは言葉を排除しているように思います。まったく正反対に思えるのですが……。
〈小西〉 正反対というのは私も同感です。絵を始めた頃ロスコのファンだったので、言葉や理屈を排除した、彼の作品のようなものを目指していました。でも、失敗や袋小路にはまって抜け出せないような感覚が続きました。力が足りなかったといえばそれまでなんですが、ともあれ、海外で勉強させていただいて、ロスコが制作した時と今とでは時代が違う、話が違う、それは大きい要素だということに気が付きました。それで言葉を使うことにしました。言葉を取り入れるにつれてだんだんと絵の雰囲気も変わっていきました。
—他にどんな作家がお好きですか?
〈小西〉 時期によって自分の中での注目度も変わってきます。ここ数年の間に直接観た作家に限って言うと、ピーター・ドイグ、中園孔二、五木田智央が面白かったです。近代の画家はだいたい好きです。近代絵画のファンだと思います。特に、今年、世田谷美術館で素朴派と、素朴派と同時代のアウトサイダーズの作家たちの作品をまとめて見たんですが素晴らしかったです。
—ピーター・ドイグと五木田智央ではまるで違いますね。あたり前かもしれませんが、いろんなタイプの作家から刺激を受けている様子がうかがえます。素朴派といえば、アンリ・ルソー。ルソーの絵には物語がありますね。小西さんの絵が詩だとすると、ルソーは物語。どちらも言葉でどこか繋がるというか、響き合ったのではないかという気がします。最後に作品をご覧いただいた方へ、メッセージをお願いします。
〈小西〉 「月を数える」をご覧いただき、または興味を持ってくださりありがとうございます。私の絵が、その日の天気や気分の話、思い出話、その他の無駄話など気軽な会話のきっかけになれば嬉しいです。これから大切な方と久しぶりに顔を合わせる方もいらっしゃると思いますが、その時にまた見ていただくのが理想です。次に向けてこの後、制作に精を出します。本当にありがとうございました。
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