新井あかね作品展
〈meeting〉
2025.4.26[土]~6月4日[水]

【第36回】新井あかね
https://araiakane-art-hp.amebaownd.com/
日本画家。1993年生まれ、神奈川県出身。2019年武蔵野美術大学大学院美術専攻日本画コース修了。
【主な作品展】
〈2025年〉
・GINZA 1 to 8(銀座中央ギャラリー)
・食・礼讃展Ⅲ(GalleryTK2)
・A &AⅢ(GalleryTK2)
・新井あかね個展『space』(GalleryTK2)
〈2024年〉
・ハガキサイズ展(銀座中央ギャラリー)
・ACT新春小品展(アートコンプレックスセンター)
・ぽっつんと展(八犬堂ギャラリー)
・食・礼讃展(GalleryTK2)
・TK2セレクション展(GalleryTK2)
・わたしの小さな宝物(伊勢丹新宿)
・ヒト展3(GalleryTK2)
・GINZA ART FESTA(松屋銀座)
・個展『周縁にある』(GalleryTK2)
・グループ展示『さよならさんかく』(GalleryTK2)
・私のちいさなたからもの(美の起源)
・KANZEN(伊勢丹新宿)
〈2023年〉
・KENZAN2023(東京芸術劇場)
・GINZA ART FESTA(松屋銀座)
・二人展《ガラス箱ト影ノ向キ》(ギャラリーいちょうの木)
・二人展《晴れときどき曇り、たまに雨》(つかうたのしむ+NOTION)
・たんざく展&そのつづき展(新井画廊、アールグロリュー)
・個展《縁ある猫展》(GalleryTK2)
・第21回アートギャラリーホーム展(チャームプレミア御殿山)
【主な受賞歴】
〈2023年〉
・第21回アートギャラリーホーム入選
・KENZAN2023村越画廊賞
〈2018年〉
・公益財団法人佐藤国際文化育英財団佐藤美術館奨学金授与
〈2017年〉
・卒業制作優秀賞受賞
・アートアワードトーキョー丸の内2017、建畠哲賞受賞
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くろ
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ひかりの中で

ねこかぶり
【見どころ】
「距離感や空気感を大事にして制作しており、岩絵具や麻紙の素材を生かした表現ができるように日々模索しています」と語る日本画家の新井あかねさん。今回の作品展でも、展示している「ねこかぶり」シリーズは、「人と人との距離感を表すために、ことわざ『猫を被る』から発想しています」とのこと。物語性に富む、キュートでちょっとミステリアスな新井さんの世界の裏側を、覗いてみたいと思います。
(インタビュアー 株式会社サンポスト 前田 敏之)
■ルネ・マグリットの絵に惹かれて。
――武蔵野美術大学の卒業制作で、優秀賞を受賞。その作品、「偽りの境界線」を過去作品のファイルで見たとき、衝撃を受けました。
https://selected.musabi.ac.jp/y2016/jp/s01
というのは、これまで絵というのは情景を切り取ったり、積み重ねたり、イメージを展開したりと、方法はいろいろあるにしても、定着された事象そのものを表現しているように思っていたのですが、新井さんのこの作品を拝見したとき、永続している今をそのまま(ゆらいでいるまま)留めたかのような、不思議な感覚でした。と同時に、境界線というものを改めて提示されていて印象的でした。自然なら自然のみではなく、コンクリートと自然を同時に描くといった視点は、幼少期の原体験に繋がっている気がします。生まれは神奈川県とのことですが、具体的にはどちらでしょうか。
〈新井〉神奈川県横浜市の磯子区出身です。自然もありましたが、基本、舗装された土地や埋め立て地に囲まれていたので、それは作品に影響を与えているように思います。その後、茨城県に住んでいることもあったので土地の性質や比較ができ、興味をもつきっかけとなりました。
――茨城県はどちらでしょうか。磯子区とどのような土地の違いがありましたか?
〈新井〉茨城県の神栖市です。関東平野を体感できる広くて遠くまで見える、自然が豊かな土地でした。横浜は坂道だらけだったので新鮮でした。
――幼少の頃から絵はお好きだったのでしょうか。
〈新井〉絵を描くことは幼少期から好きでした。本を読むのも好きなので家にあった物語の本はほとんど読みました。
――どんな本が印象に残っていますか? 家にある本というのは、大人の本ですか?
〈新井〉母が本好きで絵本も多くありましたが、読めるようになってからは『ナルニア国物語』や岡田淳の『こそあどの森』が好きでした。中学に入ってからは星新一の本を全部読んだりしていました。
――活字に囲まれて育ち、文章の方ではなくアートに興味を持たれたのはいつでしょうか。
〈新井〉アートという認識はしていなかったですが、小学生の時に購入していた『おおきなポケット』という冊子にルネ・マグリットのページがあって、びっくりした覚えがあります。人の顔がなかったり、靴から指が出ていたり、こんなことアリなんだと衝撃を受けました。美術はそこから興味をもった気がします。
――確かにマグリットの絵は子どもの心を捉えますね。私も雑誌に載っていたマグリットの絵を見て、その幻想性に惹かれました。ただ、アートには向かわず、4次元とか相対性理論とか、物理の方に興味が湧きましたけれど……。ところで、進学先を武蔵野美術大学に決められたのはなぜでしょう。
〈新井〉いろいろなことに興味があったので、他学科の授業も受けられるところに魅力を感じました。
――武蔵野美大って、たとえばデザイン系の学科の人が、油絵科の授業も受けられるのですか?
〈新井〉記憶が曖昧ですが、確か日本画科でも彫刻が必須科目で、選択制で他の科目も取れました。教職を取っているとデザインも必須だったと思います。体力がないので彫刻科目が大変すぎました。
――新井さんは他の学科のどんな授業を受けられたのでしょうか。
〈新井〉選択科目は版画と陶芸を受けました。特に版画は体験しないとわからないことだらけだったので楽しかったです。
――学部、大学院を通じて、印象深かったことはなんでしょう。
〈新井〉大学に入るまではひとりで描くことが多かったので、美術が好きな本当にいろいろな人だらけで、空間が楽しかったです。
――そこにいるだけで楽しいっていうのはいいですね。美術という同じ枠の中で、切磋琢磨しながら未来に進んでいることの幸福感なのでしょうか。学部のときと大学院とでは、なにか違いはありましたか。
〈新井〉そこまで変わらなかったように思いますが、学部最後の卒制で賞をもらえたので自信になったと思います。
――先にご紹介した「偽りの境界線」ですね。日常世界を描きつつもその奥に政治的な意味合いも感じられて、境界線という点に注目されたのがすごいなと思いました。文字だと伝わらないのですが、テクスチャーも興味深いです。
〈新井〉学生の時から素材の質感が好きで生かそうと考えていたので、そのへんを楽しんでもらえると嬉しいです。
――たとえば「ねこかぶり」シリーズに出てくる黒猫は、素材はなにで描いているのでしょうか。全体がマット調ですが、キラキラしています。
〈新井〉日本画材の岩絵具の岩黒になります。しっかり黒く、でもキラキラさせるために粒子を分けて塗り重ねています。
――絵に登場する少女は、新井さんご自身ですか。
〈新井〉絵の物語性を出すために人間を置きたいという意味で人を描いています。自分の気持ちは入れていますが、自画像のようなつもりはないです。
■身近な環境に焦点を当てて制作。
――ひとつの作品を制作する場合、どういうところから始めるのでしょうか。
〈新井〉美術を学んできて、その時の時代の流れや環境によって名画が生まれているのだろうと思い、自分の生きてきた環境や時代を鑑みてコンセプトを考えるところから始めました。ただ自分がそんな大層な人間ではないので、身近な環境、身近な年代に焦点をあてて考えています。生きている環境(土地)や人との関わりや距離感からイメージを膨らませています。「偽りの境界線」は環境と自分との距離感を表しており、「ねこかぶり」のシリーズは人と人との距離感を表すために、ことわざ「猫を被る」から発想しています。
――距離感という言葉からふと思ったのですが、コロナ禍で外出ができなくなったりして人との距離が遠くなったように感じます。今は回復していると思いますが、生きづらい世の中であることは、ますます加速している気がしています。「ねこかぶり」というのは、今の世の中で生きるための、新井さんなりの対処法なのかなと思ったりもしたのですが、いかがでしょう。
〈新井〉そうですね。線を引く絵が多かったのですが「ねこかぶり」はねこがいることで安心している空間になっていると思います。
――コンセプトを考えたら、その後でたくさんのアイデアスケッチをされるのでしょうか。
〈新井〉アイデア出しや構図を考えるのにいちばん時間を使っています。ちまちま小さいイメージを描いて、方向が定まったら下図を描き、本紙に写してから絵具に入ります。やり直しが効かないことも多いので手順を決めてから描きます。
――アイデアスケッチは、クロッキー帳のようなものに描かれるのでしょうか。
〈新井〉 はい。marumanのクロッキー帳に描いています。最近は、小作品はフリクションの消えるボールペンでアイデアや下図を描くことが多いです。直感的に使えて早いのでこれがないと困ります。消しゴムのゴミが出ないし、外でも描けるので便利です。そのほかは基本、日本画材を使っています。ただ最近の描き方だと、高い麻紙(雲肌麻紙)の方が、質感が好きなので、画材費がどんどん上がっています……。
――作品の材料で水干絵具というのがありますが、これは岩絵具とはどのように違うのでしょうか。
〈新井〉水干は染料系の日本画材になります。岩絵具は岩を砕いた砂状のものですが、水干は染まるような、水彩絵の具のような表情になります。
■絵の中に仕掛けを作りたい。
――話は変わりますが、尊敬する作家の方はいらっしゃいますか?
〈新井〉いろんな方がいますが、体力がないので、大きい作品や年配で続けている方は尊敬します。
――物質的に大作を描いている人っていうことですね。確かに大作は重いですね(笑)。子どもの頃に、家の本を全部読まれたとのこと。お好きな小説家はいらっしゃいますか。
〈新井〉先にも上げた岡田淳という方の児童書が好きで、挿絵に影響を受けていると思います。
――どういうところがお好きなのでしょう。
〈新井〉少ない線で、きれいに形を表すところが好きです。それとミステリーやサスペンスが好きなので、絵の中に仕掛けを作りたい気持ちがあります。それでいうと『名探偵コナン』も大好きです。
――『コナン』、いいですよね(笑)。制作は集中して行う方ですか、それとも毎日少しずつですか。
〈新井〉イメージ図を少しずつやって、本紙に描くときは一気に描くことが多いです。いつも締切りギリギリの制作をしています。改善したいです……。
――今はどんな生活パターンなのでしょう。
〈新井〉現在は仕事が不定期にあるので、仕事が午前中だけの時は午後に描くなど、空いている時にしています。
――絵を描く以外で、お好きなこと(趣味)はなんでしょうか。
〈新井〉基本的にはインドア派なので漫画・アニメが好きで見たり、多少行動力はあるので、そこから影響を受けて実行したりしています 。海に石を拾いに行ったり、旅先を決めたり、キャンプしたり。
――旅行はお好きですか。
〈新井〉好きです。最近は調べるのも好きなので計画をたててから行くことが多いです。ヨーロッパは、一度は行ってみたいですが、なかなか難しそうですよね……。
――旅をすると新しい発見があるかもしれませんね。将来やってみたいことはなんでしょうか。
〈新井〉ルーブル美術館に行ってみたいです。
――ずいぶん昔に行ったことがあります。当時、お金がなくて、ルーブル美術館は(今はどうかわからないのですが)日曜日が無料だったので、日曜日を待って行ったことがありました。あまりの広さにびっくりしました。美術館へはよく行かれますか?
〈新井〉学生の頃は学割が使えるし、行った方がいいかなという気持ちが大きかったのですが、最近は気になったものに積極的に行って、いろいろ吸収しています。実際に見ることがとても楽しいし、東京はさまざまな展示があって助かります。
――今回、作品をご覧になった方へメッセージをお願いします。
〈新井〉ご高覧いただきありがとうございます。画材の表情やテーマなど、どこか少しでもお楽しみいただければ幸いです。
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