雅士×MARIKA
『11月31日の猫を見た』
2023年12月7日~2024年1月16日
雅士(まさと)
【プロフィール】
2002年、東京生まれ。
主に平面作品を制作しています。
【主な作品展】
2023年
・グループ展『廻廻解剖』新宿眼科画廊
・二人展『Copy』zushi art gallery
MARIKA
【プロフィール】
1998年生まれ。
フィルムでの撮影を中心に活動。
【主な作品展】
2023年
・二人展『Copy』zushi art gallery
雅士作品「造られた街」
MARIKA作品「#6 Home」
【見どころ】
『11月31日の猫を見た』というタイトルは“日常と違和感”がテーマとのこと。一枚一枚のプリントはもとより、空間全体にもこだわりたいと、柱を写真で埋め尽くしたり、ショーケースをライトボックスに見立て作品化するなど、いつもの365カフェとは一味違った雰囲気になっています。雅士さん、MARIKAさんに撮影や写真にまつわるあれこれを伺いました。
(インタビュアー 株式会社サンポスト 前田 敏之)
■伝説の美学校で撮影やプリント技術を学ぶ。
──初めてカメラを手にしたのはいつですか。それはどんなカメラですか。
〈MARIKA〉 小学5年生のときにもらったCanon PowerShot E1というコンデジが最初です。フィルムカメラは2018年にCONTAX T2を使い始めました。
〈雅士〉 僕はNikon FM2です。写真工房を受講した際に購入しました。
──写真工房というのは?
〈雅士〉 美学校写真工房です。
──美学校といえば、かつて美術家の赤瀬川原平が教えて、南伸坊や渡辺和博を輩出し、一時期は美大生もここで学んだ方が有益なんじゃないかとの評判も立ったほどの、いわば伝説の私塾。1969年創立で、講師に著名な作家が多いのも特徴と聞いています。美術から写真、音楽、演劇など幅広い芸術分野を学べるわけですが、MARIKAさんも写真工房ですか。
〈MARIKA〉 そうです。もともとフィルムで写真を撮っていて、自分でプリントもしてみたいと考えていたときにインスタグラムの広告で知り、すぐに資料をもらいに行って決めました。
〈雅士〉 僕は高校時代に絵を描いていて、美術の先生に色々と教わっていました。その先生に聞いたのが美学校です。説明会で講師の方々の作品集を見せていただき、その中で最も惹かれたのが西村陽一郎先生の『青い花』でした。暗闇に光る鮮烈な青と初見では想像し得ない技法(スキャングラム)に大きな衝撃を受けて、この人からは多くを学べると直感し受講しました。
──西村さんは365カフェでも作品展を開催し好評でした。現実を撮影するのが写真のスタートだとすると、『青い花』はその先に行っている気がします。ところで、美学校写真工房では、具体的にどんなことを学ぶのでしょうか。
〈MARIKA〉 フォトグラムやピンホールカメラから始まり、フィルムカメラの使い方(絞り、シャッタースピード等の設定)やフィルムの現像方法、プリント(暗室作業)を一年単位で学びます。年齢も10代から50代だったりと幅広く、違う経験をしてきた人たちがいて多くの視点を知ることができます。
〈雅士〉 そのピンホール撮影をしたとき、天気が曇りだったので出来上がった写真が荒れていて魅力がありました。なので西村先生から高温現像を学び、より一層のめり込みました。
■フィルムを使って撮ることの意味は?
──今はどんなカメラとフィルムを使っていますか。
〈雅士〉 カメラは変わらずNikon FM2で、レンズはAi Micro-Nikkor 105mm f/2.8sを使っています。フィルムはILFORD DELTA 100を1600に増感して使っています。その他にもDELTA 3200やSFX 200等、ILFORD製のものを好んで使っています。
〈MARIKA〉 私は、最近はPENTAX67Ⅱ105mmとCONTAX TVSが多いです。フィルムに関しては、使いやすいという意味でカラーネガはPortra400に落ち着きました。モノクロは安定した写りより個性重視で、いまでもいろいろ試しています。
──フィルムにこだわる意味は?
〈MARIKA〉 デジタルを使っていたとき、撮っては確認して、良くないものは消して、満足できたらハイ次、みたいなことが多くて。最初に惹かれて体が反応したところから離れていく感じで、相手に対して雑になっている気がしました。その点フィルムはシンプルに向き合える。撮れなかったものは諦めもつくし、撮れたら最高。“物”として残るのも嬉しいです。
〈雅士〉 僕の場合、それが標準だからです。
■写真撮影のその先にあるもの。
──好きな写真家、あるいは目標としている写真家がいたら教えてください。
〈MARIKA〉 ソノダノアさんと服部恭平さんが好きです。ソノダノアさんを知ったのは娘のもくれんさんとの生活を写した『ケンカじょうとういつでもそばに』という写真集を本屋でジャケ買いしたときでした。生きることをやめない姿勢、おもしろさの隣に切実さがあって、世界が愛おしくなりました。服部さんはたしかに過ごした包まれるような時間だったり、目の前の湿度が生身で伝わってきていいなと思います。
〈雅士〉 僕は中平卓馬さん、エリオット・アーウィット、アンリ・カルティエ=ブレッソンが好きです。
──エリオット・アーウィットやアンリ・カルティエ=ブレッソンといえば、マグナム・フォトという「報道と芸術の個性的融合」を目指す写真家集団の会員ですね。1947年にロバート・キャパ、ブレッソン、ジョージ・ロジャー、デヴィッド・シーモアが創設しました。雅士さんは報道写真にも興味があるのでしょうか。
〈雅士〉 いえ、報道写真に興味があるわけではありません。僕が写真について考える際に構図は欠かせない要素であり、それを強く意識させてくれたのがアンリ・カルティエ=ブレッソンです。今でも彼の写真を見る度に自分の中に構図の種類が増えます。エリオット・アーウィットを初めて見たのは京都の何必館でした。彼はとてもユーモアに富んでいて、その視点を非常に巧みな構図で切り取っています。それらの写真は真面目さと不真面目さのバランスがとても良く、まだ何をどう撮れば良いかわからなかった僕は写真でこういう事ができるんだという衝撃を受けました。
──中平卓馬さんは、ブレッソンやアーウィットとは、方向性がまったく違うように思いますが。
〈雅士〉 そうですね、僕もこの御三方の名前を挙げる度に不思議に思います。中平さんは写真の遷移が激しい方ですが、どの写真集を見ても面白いんですね。その面白さというのは常に写真とは何か、何をすべきかを問われているところにあります。きっと中平さんを知らなければ今頃は反応した場所をなんとなく良いと感じる構図で切り取っていただけになっていたかもしれません。それが悪いこととは思いませんが、ある一つのスタイルを持つより常に悩み変化していくほうが僕としては長く続けていけるのでとても感謝しています。
──写真は基本的にはその場に行かないと撮れないですが、出かけること、旅に出ることは好きですか?
〈雅士〉 外は結構好きです。特に深夜のビル街はゲームの影響なのか心象風景としてあります。それが顕著に現れたのが僕の1st写真集『1Y34F28P』です。
〈MARIKA〉 少し前に南フランスに行く機会がありました。滞在先にいた女の子とお互いに拙い英語で会話をしたり、家の目の前のずっと続く道をただひたすら歩いて馬を見つけたり、そういう旅での出会い、その場のなんでもないことをするのが好きだなと思いました。言葉をもっと身につけて、現地の人と話しながら街や人々の空気を撮影できたらと思います。
──お二人にとって、写真とはなんですか?
〈雅士〉 まだわかりません。悩んでいる最中なので、確固たる答えを出すことはできません。
〈MARIKA〉 小学生の頃に撮っていた写真を見てみたら、好きなものが本当に変わっていなくてびっくりしました。冬の差し込む光と朝ごはん、犬のマーくん、駅から見える夕焼け、紛れもない私の日常。寝る前にふと食べ物の写真を見返して寂しくなるのはもう二度とない光景だから。それでも、もう一度起こってほしくて反芻する癖があります。そこに辿り着くまでの無駄と言われた時間が大切。帰る場所があるから安心して旅に出られるように、生きていくためにだいじな記憶を抱えておくためのもの。
──今後、こういった方向で写真を撮りたいなど予定はありますか。
〈雅士〉 とにかく今は写真とは何か、何をすべきかを考え抜くために写真を撮り続けようと思います。
〈MARIKA〉 この頃はありがたいことに展示が続いて作品をつくることに夢中になっていたので、しばらくは身の回りや生活を見つめながら撮ることに集中したいです。
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